伝統と破壊の哲学
増田伸也
伝統と破壊の哲学 Vol.5
「なぜ僕は写真で世界を目指すのか」
増田伸也
HANAFUDA SHOUZOKU#12, 2017, Shinya Masuda
「指定席」
僕らは、小学校3年生の2学期を迎えた。
クラスでは1学期ごとに席替えが行われる。
憧れのあの子の横に座れるかもしれないとか、前列はチョークの粉と先生のツバキが飛んでくるから後ろの席がいいとか、廊下側より窓際の方が暖かいから有利だとか、そんな子供達の妄想と思惑がうごめく席替えは一大イベントであった。
それは、くじ引きによって公平に決定される。
さて、席替え当日。
いつも戦隊ヒーローのモノマネばかりしている前川くんは、胸の前で小さく十字を切って、にわかクリスチャンになり、天に向かって何かを懇願している。女子たちも、手を合わせて必死に祈っている。くじ引きで運命が変わるかのように皆大騒ぎし、教室中を絶叫や歓声が飛び交った。
一方で、僕にはくじ引きは不要だった。
なぜなら、僕の席は先生が予め決定していたからだ。
担任の森先生はとても教育熱心で厳格な人だった。
私語はもちろん厳禁、質問によって授業が脱線させられることをひどく嫌がった。
クラスのみんながくじ引きで熱狂するのを尻目に、僕は森先生から指定された席にカバンをかけた。
さて、指定席はどの位置かというと、教卓と黒板の間である。
僕のすぐ目の前は黒板だったし、すぐ後ろは先生だった。