「猫の俳句のコンテスト─大丈夫、猫がいる」大賞(俳句部門)発表

春陽堂書店Web新小説編集部

猫の俳句のコンテスト─大丈夫、猫がいる」
大賞(俳句部門)発表

主催 株式会社春陽堂書店


皆さま、ご応募いただき、誠にありがとうございました。

今や空前の猫ブームと言われます。国内の飼い猫は900万頭に迫る勢いです(2021年発表 一般社団法人ペットフード協会調べ)
この人気にあやかって、皆さまに俳句を詠んでいただこう、写真を撮っていただこうと編集部が考案したのが「猫の俳句のコンテスト─大丈夫、猫がいる」
『Web新小説』2022年3月1日号で募集を開始したところ、猫の俳句総数2,371句、猫写真総数406点と多くの方々にご応募いただきました。
こころよりお礼申し上げます。

編集部では、2022年9月9日の締切り以来、選考委員・神野紗希さん(俳人)増田伸也さん(写真家)に俳句・写真のそれぞれの部門の選考を御願いしました。ここに謹んで大賞、佳作を発表させていただきます。(お名前はご応募された時点の表記です)




猫の俳句部門 大賞

司書終えし手に十月の猫の喉

水野大雅さん




佳作

ただ海を見つめる子猫うち来るか

加藤陽介さん



佳作

仔猫飛ぶ杏の花に届かない

伊藤英明さん



猫の俳句選評

猫の命のまぶしさ」 選考委員 神野紗希

猫を詠んだ俳句はすでに巷に多くあるにもかかわらず、こんなにもバリエーションに富んだ新しい猫のすがたを、みなさんの投句にたくさん見つけることができました。その理由のひとつは、きっと季語にあります。桜と猫、ががんぼと猫、ハロウィンと猫、風花と猫。春夏秋冬、季節と出会う猫たちの表情がさまざまに切り取られることで、一度きりの輝きを宿した一句が生まれました。

大賞に推したのは、
司書終えし手に十月の猫の喉

です。図書館の司書として今日の仕事を終え退勤するとき、通用口を出たところにいつもの猫が。しゃがみこんで撫でてやると、ぐるぐると気持ちよさそうに喉を鳴らします。十月の空気は秋らしく冷えて、ほのかな猫の体温も嬉しくなる季節。司書という役割を終え、素の私で猫と向き合うのも、自然体でなごみます。
窓からの日ざしの奥に静かに立ち並ぶ本、色づきはじめた木々の間を吹きすぎる秋風、建物の影にごろりとくつろぐ猫。とある秋のとある片隅の出来事を、「手」と「喉」にフォーカスしながら、ありうべき尊い瞬間として再現してくださいました。

佳作第一作は、
ただ海を見つめる子猫うち来るか

です。ただ海を見つめるばかりの子猫は、いったい何を考えているのでしょう。まだ世界を知らない子猫の目に、海はどんなふうに映っているのでしょう。子猫を見つめているうち、あまりに無垢で放っておけなくなって、「うち来るか」と声をかけました。ここから、子猫と私の物語がスタートします。

佳作第二作は、
仔猫飛ぶ杏の花に届かない

です。杏の木は、三月の終わりから四月にかけて、淡い桃色の花を咲かせます。仔猫が頑張ってジャンプするのだけれど、杏の花に届きません。必死に挑む仔猫のいとおしい姿を、やわらかな春風と、甘やかな杏の花の香りが包みます。

猫の命のまぶしさ、いじらしさ。猫と生きる暮らしのにぎやかさ、いとおしさ。十七音に満ちた猫への愛。大丈夫、猫がいる。選句を終えて、そう頷きました。

俳句部門正賞・提供企業紹介]
大賞 猫のオリジナル箸置き5個セット/書肆 吾輩堂
   猫のスリッパ/アクセル ジャパン
佳作 猫の手ぬぐい2枚セット/書肆 吾輩堂
   ハリネズミテーブルブラシ/アクセル ジャパン
・書肆 吾輩堂 https://wagahaido.com/
・アクセル ジャパン http://axeljpn.com/





神野紗希選、秀句ギャラリー」

力作を多くご応募いただきましたので、大賞、佳作のほかにも「神野紗希選、秀句ギャラリー」を同時に掲載させていただきました。
また、選考委員・神野紗希さんから掲載の皆さんにあたたかなメッセージをいただいています。

大賞・佳作の3作以外にも、すばらしい句が多く寄せられました。その中から、さらに選りすぐりの約100句を「秀句」として掲載します。選句のポイントは主に、猫の命がいきいきと宿っているか、ひとしずくのオリジナリティはあるか、という点です。こんなところにも猫がという驚きも、やっぱり猫はこうだよねという納得も、ささやかな発見として書きとめることで、日常の解像度が上がります。さて、みなさんは、どの猫に心奪われるでしょう。句の景色や心をイメージしながら、ぜひ読んでみてください。

秀句ギャラリー選評 神野紗希



恋猫の塀の直線とぶ曲線

古田几城さん


漱石も猫で暖とる草枕

鈴木久夫さん


新品のキャリー 譲渡会の子猫

かぴばらさん


猫の毛もはらはら抜けて竹の秋

しむらむしさん


散る花をねらうタマの尾みぎひだり

ね子さん


猫の目に映る亡友原爆忌

初霜若葉さん


春雷や欠伸する猫膝の上

亀田かつおぶしさん


猫の毛が付いたスーツの入社式

小林美博さん


ハロウィンの街の隙間に猫眠る

十川長峻さん


抱かれてこと切れし猫朴の花

小塚信江さん


あたたかや木炭で描く猫のかほ

吉田みち子さん


鏡見て首を傾ぐる子猫かな

伊勢史朗さん


年とらぬ猫の遺影に切る西瓜

森山博士さん


いつまでも顔洗う猫日永なる

岩田 勇さん


肉球冷たしあと五分寝かせて

木染湧水さん


雄猫の小さき乳首山笑ふ

あいむ李景さん


ぷしゅんと ねこのいう 鼻に菜の花の

うえもとさん


猫の子のあくびけもののにほひかな

げばげばさん


殺し屋のコスプレのまま抱く子猫

シャビさん


かたまつてあくびあくびの子猫かな

ちいこリターンズさん


セーターに亡くした猫の毛が絡む

ちゃわんさん


ソーダ水静かな海の駅に猫

むぎちゃさん


三色の菫と三毛の子猫たち

伊東 真さん


恋猫の尾に蝶々が止まりさう

伊藤栞奈さん


七月のちぐらにオッドアイの猫

越智夏鈴さん


猫よ聖樹見つめよ星の降りるまで

円山なのめさん


キャットタワー各段の冬日向かな

岡野将浩さん


新学期猫と遊んで遅刻する

海瀬安紀子さん


猫の押すデリートキーや春の虹

街路樹さん


耕運機猫の居座る日永かな

吉田里香さん


降る雪や母を黒猫ひとりじめ

眠り猫さん


眠れないわたしと眠らない子猫

高田月光さん


猫だって不思議はあるよ春の虹

今井淑子さん


恋猫にワインの栓の香を嗅がす

根岸哲也さん


家出から かえったミケの 背にさくら

森くま堂さん


夏の宵 猫が踵に 巻きついて

山岡大祐さん


かけ昇る子猫に高き夏木立

山上章弘さん


今日猫の四十九日の毛布嗅ぐ

山田喜則さん


初がつお 口にくわえて 隠岐の猫

児島 巧さん


西日さす猫の首輪のシーグラス

若狹昭宏さん


初霜や猫の体温ほどの愛

秀島由里子さん


恋猫やびいだまにびいだま当たる

秋さやかさん


涼しかろ手提げ金庫の上に猫

小池令香さん


なんの夢見るや四月の猫温し

庄野酢飯さん


百合の庭仔猫の墓の石ひとつ

松田玲子さん


廃校の花壇あたりで猫さかる

森山高史さん


猫の目に野生の光アゲハチョウ

水蝶まゆみさん


秋を詠む猫のしつぽを躱しつつ

杉江知治さん


小上がりは猫の縄張り月見豆

澄珈さん


初弾きを終へたる部屋を覗く猫

西田克憲さん


肉球に叩かれてゐる土筆かな

渡辺桃白さん


猫の腕ひよい蒲公英のわた飛んだ

赤尾双葉さん


手術痕避け猫洗う冬銀河

折田祐美子さん


猫の恋ストッキングをぬぎすてる

千葉信子さん


恋猫と停電の闇分かち合ふ

村山恭子さん


野良猫の逃げ足かろし草の花

大森則子さん


仔猫てふ一かたまりの和毛かな

谷岡健彦さん


吾が好きかこたつが好きか猫が来る

智克くんのお父さん さん


湯治場に 子猫慣れたり 春近し

中原政人さん


本日の野良猫会議 議題「月」

嶋村らぴさん


老猫の目頭ぬぐふ菊の綿

藤田ゆきまちさん


色なき風へ垂直ダイブの三毛

楠あいさん


暖かや猫ゆうゆうと青信号

猫屋ハチワレさん


猫だけが味方よ冬の夜の涙

ようこうよさん


猫の髭お守りに待つ大試験

伴あずささん


女王陛下直属郵便局員の子猫

別役昌子さん


山門を 守りし猫に 秋の風

片岡 明さん


風青し 木天蓼に跳ぶ 黄の瞳

北 一華さん


遺されたリボンと鈴と十三夜

堀 卓さん


ミュートして子猫とじゃれるテレワーク

堀水芽依さん


朝刊に香箱座り梅匂ふ

霧島ちかこさん


乳ばなれ仔猫のひげにミルクつぶ

木佐優士さん


木の股にまどろむ猫や風涼し

木村隆夫さん


路地裏の 猫のあくびが うつる春

野井さくらさん


野良猫の許さるる町春の暮

矢野貴子さん


脱いだ服 猫が顔出す 冬の暮

たまさん


かじけ猫甘えているのは私かも

立花春菜さん


渡り鳥眺むる君も野良だろう

櫂 英人さん


かき氷に肉球 毛立つクロの背

天利健一さん


猫の目に 見透かされる恋 春霞

スピカさん


くびかしげ仔猫まなざす蛍篭

高野すばるさん


春の夢むさぼる猫の和毛かな

橘しのぶさん


春愁にふける傍から猫の飛ぶ

村山芳行さん


さより干し 見上げてならぶ 親子猫

35さん


あちこちで猫が欠伸をする五月

あま健次郎さん


猫の子のいまだソファーに飛び乗れず

安藤知明さん


猫の子が 卵をつつく 復活祭

田辺晶子さん


猫は寝子 吹く風優しき 毛布哉

サリー・ドラゴンさん


薫風や眠たい猫の午後に蜘蛛

中村幸子さん


菜の花の畑を猫がお通りだい

remさん


秋の日やお産の猫の腹撫でる

あやめさん


乳を飲む子猫の口の端の乳

空流峰山さん


猫の墓草取りをする秋時雨

森下博史さん


キジトラの2匹が並ぶ扇風機

ぶさぽんさん


朝日さす 鳥居に遊ぶ 子猫かな

岡村友子さん


猫肉球 舐めて春風 そっと乗せ

竜門さん


方円の器に猫やひなたぼこ

正念亭若知古さん


捨て猫の顔して捨て猫抱く冬至

上田 蘭

最新号のコンテンツ

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森鷗外没後100年。晩年の名作「渋江抽斎」に関わる直筆が見つかった

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【連載】エッセイ

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最先端を疾走する詩人の魂とは何か。これがこころに届く現代のポエムだ。

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【連載】ムービー

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春陽堂書店Web新小説編集部

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春陽堂書店Web新小説編集部