アマネク ハイク
神野紗希
アマネク ハイク
神野紗希
第十一回 ランプの記憶、言葉の息
綿虫がよく飛ぶはつふゆの午後、届いた小包を丁寧に開ける。そっと取り出せば、二冊の本が。富澤赤黄男の句集『蛇の笛』と『黙示』だ。『蛇の笛』は昭和二十七年十二月二十五日刊。深い夜空のような濃紺の表紙をめくると、一面銀色の見返しがまぶしい。句をなぞれば、活版印刷の凹凸が、さざめくように指に触れる。
『黙示』のほうは、血が古びて乾いたような臙脂の函に、正方形の句集本体が収まる。一ページには一句ずつ。屹立する言葉は虚空へ刻み込まれるように静かだ。昭和三十六年九月二十日発行。百部限定版とある奥付には、手描きの朱筆で「㐧貮冊」とある。
この春、NHKから連絡があり、俳句を織り交ぜたドラマを作りたいので
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