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『 寺子屋山頭火 』

町田康

寺子屋山頭火

数々の不運に見舞われる山頭火。快楽を追求しようとしても苦しい。そんな時、関東大震災が起こる。熊本に逃げ帰り、妻サキノに会ったけれど……。

町田康

第十三回 解く術もない迷ひ

大正十二年九月、東京で大地震に見舞われた山頭火は這々(ほうほう)の体で別れた妻・サキノの住む熊本に逃げ帰った。懐には一文の銭も無く、他に行くところがなかったからである。

このとき山頭火はどんな気持ちであっただろうか。そりゃあ、ばつが悪いだろう。っていうのはそらそうだ、せんど生活の苦労をさせ、挙げ句の果てに、「俺は東京で一旗揚げる」とええ年をして寝言みたいなことを言って勝手に居なくなり、その間、正式に離婚した妻のところに戻っていくのだからキマリが悪いに決まっている。

だから、一〇〇万円くらい預けてある預金通帳か何かをポーンと放り出し、「東京で稼ぎ貯めた銭だ」とそっぽを向いて言うとか、それが無理なら、せめて都腰巻、それも無理なら子供に土で拵えた鳩笛かなにかを買って帰って、それでようやっと顔を上げることができる、てなものであるが、山頭火の場合はそんなことすらできなかった。

しかし山頭火は、とは言うものの、何だ彼だ言ってサキノは彼を受け入れてくれる、と考えていたのではないだろうか。

その根拠は、というと、一言で言えば非常時であったからである。

正味の話が東京はどえらいことになっていた。そこいらに死体が転がり、井伏鱒二が、「頭がふらふらになった。」

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