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『 寺子屋山頭火 』

町田康

寺子屋山頭火

関東大震災に()って、熊本の妻サキノのもとに戻ろうとしたものの、心よく受け入れられるはずもなかった。酒に溺れる日々の末、とうとう市中でとんでもない事件を引き起こす。さて、山頭火が連行された先は……?

町田康

第十四回 酔いどれの仁王立ち

大正十三年末のあの事件とは何か。

どういうことかというと。その日、山頭火は酒を飲んだ。何故酒を飲んだのかというと。自分という空間に耐えられなくなったからであろう。

俺の存在を頭から打ち消してくれ

俺の存在を頭から否定してくれ

そんな気持ちを抱いて、一杯飲む。そうすると、ふわっ、とした気持ちになって自分という厄介物が酔いに融けていくような心持ちになって陶然とする。

ええのお。やっかいぶつがとける。おっ、やっかいぶつが。厄介仏画。おおおおおっ。これおもろいなー。盃に厄介仏画描きにけり。おおおっ。ぜんぜんダメじゃわいのー。

といった随想が頭の中を流れる。

そうするとそれを加速するために更に酒を飲む。

自分がグズグズに崩壊してくる。崩壊にはさっきまでなかった不快感がある。なぜなら本来、存在は崩壊に抗ってあるからである。

そのつらい感じを麻痺させるためにもっと酒を飲む。

崩壊と溶解が更に進み、ドロドロになる。といって自分が完全になくなったわけではなく、ドロドロの中に意志だけがのたうっている。

けれども意志は自分が形を保っているからこそ、意味や方向を保持できるのであり、それがゲル化している状態では、

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