アマネク ハイク
神野紗希
アマネク ハイク
神野紗希
第三回 硝子の記憶
チェックインのときに、硝子の小瓶をすすめられた。
「是非、こちらに入れて、お持ち帰りください」
小さな手にその瓶を載せてもらった息子は、コルクのふたを取ったり閉めたりしながら、しげしげと眺めている。なんでも、宿の前の浜辺で、シーグラスが拾えるらしい。
春もなかばの瀬戸内海は、ひたひたと凪ぎ渡っていた。人口わずか七人のこの島には、スーパーもコンビニもない。宿に泊まる客のほかに、ときどき、島から島へ橋を渡るサイクリングの自転車が通り過ぎてゆくくらいだ。浜に降りて歩いてみると、たしかに、砂にまぎれて何かが光っている。
「これかなあ?」
息子が拾い上げたのは、その日の海と同じ翡翠色をしたシーグラスだった。いわゆる海を運ばれてきた硝子の破片だが、波に揉まれて角がとれ、河原の小石のような丸みを帯びている。陽に透かせば淡く光を溜め、やさしい宝石のよう。もとはどんな硝子だったのだろう。
ひとつ見つければ次々に見つかるもので、拾うのが追いつかないほどだ。この青はサイダーかな、この焦げ茶は
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