逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』 未曽有の戦争、女性狙撃兵の目で追う
宮川匡司
未曽有の戦争、女性狙撃兵の目で追う
宮川匡司
その中で、新人作家のデビュー作である逢坂冬馬著『同志少女よ、敵を撃て』(早川書房)だけは、戦争の現実を直視する確かなリアリティーを獲得した稀有な文学作品となっている。
第二次世界大戦で、とりわけ凄惨な戦いが繰り広げられたとされる独ソ戦。合わせて3000万人以上もの人命が失われた戦争の被害は、想像を絶する。この長編小説は、この独ソ戦に、女性狙撃兵として従軍した少女を主人公にする。住民の虐殺、民間人女性への暴行、砲撃によって吹き飛ぶ兵士の身体……戦争の凄惨なシーンをいくつも織り込みながら苛烈な戦闘のディテールを表現する描写力は、とても新人とは思えない。
主人公は、モスクワの近郊の農村に生まれた少女セラフィマだ。母とともに鹿を撃つなどして穏やかな暮らしをしていた
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