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『 寺子屋山頭火 』

町田康

寺子屋山頭火

精神を病み、職を辞した背景には、辛い職場の人間関係と不本意な離婚がある。山頭火は孤独を極めていった。しかしそこにはもう一つの出来事があったのだ……

町田康

第十回 母親が井戸に投身自殺、という因果

大正十一年十二月、頭重頭痛不眠眩暈食欲不振等ヲ訴ヘ思考力減弱セルモノノ如ク精神時ニ朦朧トシテ(やや)健忘症状ヲ呈ス健度時ニ亢進シ一般ニ頗ル重態ヲ呈ス、というどえらいことになって山頭火がせっかく得たいい感じの仕事を辞めることになったその理由を探って、①職場の人間関係、②離婚によって孤絶感がいや増した、という二つの仮説を立てたが、どちらもどうも決定的じゃないように思える。

ほたらなんぞいや、ということを考えるに、やはりそれはもっと以前にあって、山頭火の人としての在り方を決定づけたとは言わない、決定づけたとは言わないが方向づけたに違いない或る事ではないか、と考える。考えてみる。

〽それはなにかと尋ねたらベンベン

(わざ)と浄瑠璃みたいな感じで言うのはそれがどうしようもない、そしてまたありふれた悲劇だからで、そんな感じにしないとかえってそのことの当人にとっての深刻な感じが伝わらないと思うからである。

というのはなにかと言うと、その母の死である。

山頭火の母、フサ(当時三十二歳)は明治二十五年三月六日、自宅敷地内の井戸に身を投げて死に、

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