『 銭湯放浪記 』
大和久勝
銭湯放浪記
大和久勝
第1回
太宰治を追いかけて「津軽」
イラスト 木下綾乃
津軽の金木といえば斜陽館。五所川原から津軽鉄道のストーブ列車に乗って金木に着いた。斜陽館は太宰治の生家として知られている。豪華な造りの館である。一泊1万円ほどで宿泊できた。今は残念ながら宿泊はできない。太宰記念館として入館することができるだけだ。
一通り斜陽館のなかを見学してから、二階の部屋に荷物を置き、さっそく近くに銭湯がないかと聞いた。歩いて2~3分の所に「金木温泉」という名前の銭湯があると教えてくれたが、宿の女主人は不満気に「汚いところですよ」とくぎを刺すように言った。宿としてのプライドを傷つけられたのだろうか。冷たい雨が降っているのになぜという顔をされた。
わざわざ遠方から金木の斜陽館に来て、近くの銭湯に出かける客などはいないのだろう。斜陽館は建物だけでなくお風呂も自慢なのに。変わった人だと思われたようなので「じつは銭湯に行くのが私の趣味なのです」と言ったのだが、納得した様子もなく女主人の機嫌は変わらなかった。
「まずいことしたかな」と思いながらも、貸してもらった宿の傘をさして、教えてもらった銭湯「金木温泉」への道を歩きはじめたら、
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