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猛獣ども

井上荒野

猛獣ども

井上荒野

東雲萌子

目を覚ましたら日が差していた。このところずっと雨続きだったから、外が明るいだけでも気分がいい。今日は調子が上がりそうな予感がする。今、書いている短編が、どうにも面白くなくなってきて、どうしたらいいだろうと悩んでいた。ばっさり捨てて、新しい話を考えたほうが、結局早く書き上げられるかもしれない。締め切りが迫っているから、きびしいスケジュールになるだろうけれど、今日はそれを受けて立つ気分だ、と東雲萌子は思った。

隣のベッドで文平はまだ熟睡している。午前三時頃までリビングにいたようだ。ゲームをしていたか、YouTubeでプロレスでも観ていたのかは知らないけれど。萌子はレギンスの上に厚地の木綿のワンピースを重ね、階下に降りた。池の景色が一望できるリビングダイニングとひと続きのキッチンで、コーヒーメーカーをセットする。一杯目のコーヒーを飲みながら、昼はお弁当ふうにこしらえてテラスで食べることにしようかと考えた。ビールかワインを少々なら飲んでもいいだろう。そういうことを文平は喜ぶから。それから、毎日ガリガリと小説を書いて生活費のほとんどを稼いでいる自分が、深夜まで自堕落に過ごして朝はいつまでもだらだら寝ている男のために、どうして毎日食事の用意をしてやったり、彼の機嫌が良くなるようなイベントを考えてやったりしなければならないのだろう、という考えがちらりと浮かんできた。萌子はそれを胸の底に沈めるようにコーヒーを飲み干した。

ちょうどそこに文平が降りてきた。くしゃくしゃの黒いシャツ、よれよれのブラックデニム。忘れるくらい何日も前からこの格好で、

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