AmazonPayでのお支払いが可能になりました!新規会員募集中!  今すぐチェックする

『 鬼ものがたり 』

桑原茂夫

鬼ものがたり

桑原茂夫

第6話

馬にされた修行僧たち 編

絵 東學

私を含めた三人の僧が、四国の海辺を、伊予、讃岐、阿波、土佐と経めぐりながら修行していたときの話です。

思いがけず山の中へと迷い込んでしまいました。初めのうちは、低い方へ低い方へと足を向ければ、自然と海辺に出るだろうと高をくくっていましたが、それは甘い判断で、いつの間にか人跡絶えた深い谷の中をうろうろ。

しだいに焦りがつのってきて、あっちへ行きこっちへ向かううちに、不意に人家らしきものが目に入ってきました。

こんなところにいったいだれが? という訝しさはありましたが、すでに脚は棒となって疲労困憊、そのうえ、道を失った心細さや、先行きの不安に押しつぶされそうになっていたところですから、たとえこれが鬼の住処であっても構うものかと、木戸を開け、三人でかわるがわる声をかけてみました。

すると奥の方から「おおぅ」と返答。

「修行中の者ですが、道に迷いまして……」

「しばし待たれい」と力強い声。

どうやら鬼ではなさそうだ、と三人で顔を見合わせました。

しかしほっとしたのも束の間、やがて出てきたのは、どこがどうということはできませんが、とにかく恐ろしげな気配をあらわにした、六十歳は超えているであろう老僧でした。ところがそんな気配とは裏腹に、いたわりの言葉を投げかけながら迎えてくれました。

「さぞお疲れであろう」

ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。

最新号のコンテンツ

連載 エッセイ (2020年10月号)

寺子屋山頭火

山頭火が図書館の職を辞した理由は、人間関係、それとも離婚の影響か

連載 連載詩 (2020年10月号)

最少の言葉で詩作する試み

訥々と紡ぎ出されるソネット。秋、詩人はどんな言葉を世界に放つのか

谷川俊太郎

連載 連載詩 (2020年10月号)

週末のアルペジオ

立ち止まって受け止めるメッセージ。めいめいが自分自身のものとして

三角みづ紀

連載 フォト小説 (2020年10月号)

スーパーフィッシュと老ダイバー

再び旅に出るジョージ。シーラカンスの長老に会い人間の愚かさを知る

連載 エッセイ (2020年10月号)

俳句で味わう、日本の暮らし

猪の多産にあやかり子孫繁栄や五穀豊穣を祈る亥の子。名句を鑑賞する

連載 回想記 (2020年10月号)

旅する少年

山陰、奈良、続く旅への衝動と学級新聞で向けられる地元への眼差し

連載 医学ミステリー (2020年10月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

胃潰瘍で亡くなった漱石。神経衰弱の要因はその気質と英国留学にあり

連載 スポーツ随想録 (2020年10月号)

スポーツは文芸をどのように彩ってきたか

スポーツに愛と死を見出し言葉に換えた二人・虫明亜呂無と倉橋由美子

連載 妖異譚 (2020年10月号)

鬼ものがたり

道に迷った山中で助けてくれた老僧。ところがムチを持ち出すと……

連載 アート&エッセイ (2020年10月号)

伝統と破壊の哲学

クラスの厄介者・野田ちんに渡しそびれた、カジカの木箱の思い出とは

連載 新人デビュー小説 (2020年10月号)

愛のレシピ:23歳

きっと誕生日が来るたび思い出す。母と祖母から渡されたほろ苦い幸せ

連載 動画 (2020年10月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

「漱石に学ぶ人脈の作り方」Dr.の必見レクチャー好評配信中

連載 動画 (2020年10月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。必見連載スタート

Web新小説会員登録はこちら