『 鬼ものがたり 』
桑原茂夫
鬼ものがたり
桑原茂夫
第6話
馬にされた修行僧たち 編
絵 東學
私を含めた三人の僧が、四国の海辺を、伊予、讃岐、阿波、土佐と経めぐりながら修行していたときの話です。
思いがけず山の中へと迷い込んでしまいました。初めのうちは、低い方へ低い方へと足を向ければ、自然と海辺に出るだろうと高をくくっていましたが、それは甘い判断で、いつの間にか人跡絶えた深い谷の中をうろうろ。
しだいに焦りがつのってきて、あっちへ行きこっちへ向かううちに、不意に人家らしきものが目に入ってきました。
こんなところにいったいだれが? という訝しさはありましたが、すでに脚は棒となって疲労困憊、そのうえ、道を失った心細さや、先行きの不安に押しつぶされそうになっていたところですから、たとえこれが鬼の住処であっても構うものかと、木戸を開け、三人でかわるがわる声をかけてみました。
すると奥の方から「おおぅ」と返答。
「修行中の者ですが、道に迷いまして……」
「しばし待たれい」と力強い声。
どうやら鬼ではなさそうだ、と三人で顔を見合わせました。
しかしほっとしたのも束の間、やがて出てきたのは、どこがどうということはできませんが、とにかく恐ろしげな気配をあらわにした、六十歳は超えているであろう老僧でした。ところがそんな気配とは裏腹に、いたわりの言葉を投げかけながら迎えてくれました。
「さぞお疲れであろう」
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