アマネク ハイク
神野紗希
アマネク ハイク
神野紗希
第四回 走る光、光る傷
「ねえ大将、新しいの、ない?」
突き出しのうるいのお浸しをつまみながら、水丸さんが聞く。
「ありますよ。こないだ、パカーンとやっちゃって」
店主の宗男さんは食器棚の隅をごそごそと探し、先日アルバイトの子が割ってしまったという平盃の破片を取り出した。白磁に淡い空色の釉薬のかかった酒器は、高台の手前を深くえぐるように割れている。
「どうにかなりますかねえ」
「うん、大丈夫でしょう。ね、鞄もってきて」
慌てて、私はさっき預かった鞄を、店の戸棚から出して手渡す。水丸さんは風呂敷を出して広げ、その上に割れた平盃を重ねると、やさしく包んで「預かっていくね」と鞄にしまった。
イラストレーターの安西水丸さんは、金継ぎが趣味らしい。私が学生時代に働いていた銀座の小料理屋の常連で、ひょっこり顔を出しては割れた器を持って帰り、修復して返してくださるという。
「ほら、このお猪口も水丸さんが。そうそう、このぐい吞みも」
店主がカウンターに並べる、
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