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鬼ものがたり

桑原茂夫

鬼ものがたり

桑原茂夫

12

謎の美女に翻弄された老医師 編

絵 東學

宮中の人たちからも、絶大な信頼を寄せられていた老医師の話です。わたしはその傍で助手として、もろもろの雑用をこなしていたのですが、老医師の高度な知識と確かなワザは、並ぶものとてないと、評判が評判を呼んでいました。もちろん市中の人びとは、診てもらうことさえできませんでしたが、妙なことに、それがまた名声を確たるものにしていたようです。

   ●

たまたまその老医師が、自分のやしきでくつろいでいるとき、華麗な装飾を施した牛車が、いきなり乗り入れてきました。

助手のわたしは、そんな話を聞いていなかったので唖然呆然、老医師もまた、なにも知らされていなかったようで、自らクルマまで足を運び、どなたですか、どんな御用でいらっしゃったのですか、と尋ねました。口調は静かでしたが、無礼な乗り入れに、相当苛立ってもいるようでした。

するとクルマの中から、いかにも愛らしい声がしました。ひとのこころの奥深くまですーっと入り込んでくる、魅惑的な声でした。

「お願いしたいことがあります。どうぞお許しください」

その声に抗えない老医師はわたしに、邸の離れを用意しろと命じました。老医師の女好きなことを知っているわたしは、やれやれ、また始まったか、と半ば呆れ返りながらも急遽支度をしました。

   ●

さて準備万端整い、老医師が声をかけると、まっかな薄衣を身にまとった女が、ふわりとクルマから降り立ちました。すぐにクルマは音もさせず走り去り、それと入れ替わるようにわらわが現れ、女の後につきました。すべてが夢の中の、束の間の出来事のようでした。

そして現実に戻されてみると、女は、用意された部屋に入って御簾みすの陰に隠れ、女の童は部屋の隅でじっとしていました。

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