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『 旅する少年 』

黒川創

旅する少年

黒川創

9 思春期を持て余す

父が、ひとの訃報に接したときに示した反応を、いくつか覚えている。

三島由紀夫らの自決は一九七〇年一一月、私が九歳のときだった。その死が報じられた当夜だったか。父が、函入りの〈豊穣の海〉(そのとき既刊の『春の海』『奔馬』『暁の寺』)など、三島の著作をどさっと買ってきて、食卓に積み上げた。面ざしが、心なしか紅潮して見えたのを覚えている。

作家で中国文学研究者の高橋和己が三九歳で早世したのは、その翌年、七一年五月である。父は、帰宅するなり、茫然と、

「高橋和己が死んだ」

と言った。京都ベ平連(ベトナムに平和を! 市民連合)などの関係で、高橋と父はいくらか面識があったはずである。

小学校四年生の私は、これを聞き、

「え、タカハシカズミが死んだ!?

と、ひどく驚いた。プロ野球の熱心なファンだった私は、ジャイアンツの左腕のエース高橋一三かずみが死んでしまったのかと、ショックを受けたのだった。

つまり、タカハシカズミという有名人は、高橋和己と高橋一三、当時二人いたのである。私は、このとき、初めて、それを知った。そういえば、たいして野球に興味があるわけでもない父と母が、ときどき「タカハシカズミが……」と真顔で口にするので、どうもおかしいなと思っていた。あれは「高橋和己」のほうだったのだな。

身近な町での死についても、父は書いている。

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