藤沢周・連作小説館⑦ 言問
藤沢周
藤沢周・連作小説館⑦
言問
藤沢周
さんざめく新緑の戯れに溜息をつく。
葉影の間から覗く遠い海のきらめきをも、力なく茫然と見やる。
一体、俺はどうしたというのだろう。
こんなにも若々しく艶やかな葉が群れ踊り、その間から見える相模湾の光が眩しく瞬いているというのに……。
鎌倉の山中は繁茂した初夏の樹々からのいきれで噎せそうなほどだが、時々幹の間をすり抜ける涼しい風が一掃する。すぐにも腐葉の下の黒土が黴臭い気を醸し、奔放にあふれる草や葉の青臭さに包まれては、また海からの風が掃いてくれる。
爽やか、などという言葉を使うのもためらわれる歳になってしまったが、緑陰の風といい、目の奥まで慰撫してくれるような若葉の緑といい、心地いいはずなのだ。マスクを外して一歩一歩人のいない鎌倉の山径を歩いて行くたびに、シジュウカラやエナガやホオジロの鳴き声が頭上で木霊もする。落ち葉の堆積する径をしっかりと踏みしめながら行けば、まだわずかに身に残っている精気が甦ってくるというもの。それなのに……。
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