川上未映子著『春のこわいもの』 春うららのその影に
眠以子
春のうららのその影に
眠以子
作家たちもまた、それぞれにこの世界を手探りで描いているなか、すぐれたアクチュアリティ=現在性を提示し続ける川上未映子の二年半ぶりの新作『春のこわいもの』が刊行された。
収められた六篇には、爆発的流行=パンデミック前夜の「世界」でぼんやりと浮かび上がってくるもの、まだ抑えられている悪意や本心、名づけ得ない衝動などが、甘やかなようで時に怖気を呼ぶ、春の冷気のごとき気配を纏って描出される。
やわらかく、しなやかな筆致ながら言葉が粒だち、世界が凝縮して煮詰められていくような感覚がもたらされる一方、
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