俳句で味わう、日本の暮らし
黛まどか
俳句で味わう、日本の暮らし
黛まどか
第五回 半夏生
夏至から十一日目、太陽が黄経百度を通過する日で、新暦では七月一日~二日頃。中国から渡来した七十二候の〝半夏生〟が、江戸時代にそのまま雑節の一つとなった。〝半夏〟は、烏柄杓という薬草の漢名で、半夏生は半夏が生える季節の意。〝半夏半作〟という言葉の通り、この日までに田植を終えないと収穫が半分になってしまうとされ、農事の目安にした。
二毛作の地方では六月に麦を刈り取り、半夏生までに田植をする。半夏生の日に収穫された新麦で団子を作り、神仏に供えたり食したりする習慣が全国にある。讃岐地方では、新小麦で〝半夏団子〟を作る。
私の母は静岡県の在の出身だが、幼い頃の思い出に半夏生の日に各農家で新麦を蒸かした饅頭を山のように作っていた記憶があると言う。当時この地方は麦の収穫の後に田植をし、半夏生の日には農耕具を洗い清めて労い、豊作を祈る集まり〝馬鍬洗い〟が行われたそうだ。そこで振る舞われたのが小麦饅頭だ。丸い蒸し器いっぱいに蒸しあげられた饅頭には餡が入っていて、子供にとっても特別な日だったという。戦後間もなく小豆が手に入らなかった年は、祖母がにんじんを擂って塩を入れて甘みを引き出し、餡の代わりにしたそうだ。
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