岡本行夫「スーパーフィッシュと老ダイバー」希望と感動の最終回  今すぐチェックする

『 旅する少年 』

黒川創

旅する少年

黒川創

4 旧二等兵と父

旧日本軍の兵隊の出立ちをした人と、一緒に旅をしたことがある。一九七四年、中学一年生の夏のことだ。松野春世さんという人で、父のいくつか年長の友人だった。

青森県の旧制弘前中学から東京の青山学院(当時は専門学校)に進み、一九四五年七月、岩手県盛岡の航空隊(教育隊)に、陸軍二等兵として応召入隊。一〇日後には、秋田県能代の東雲しののめ航空隊に配属された。翌月、八月一五日には、もう日本の敗戦である。それまで最下級の二等兵だったので、古参兵から殴られる経験はあっても、こちらから誰かを殴る経験はなかった。だが、もしも戦争が長引き、自分も上等兵になったり、さらに幹部候補生から将校になったりしていれば、部下の兵隊を殴ることがあったかもしれない。だからこそ、自分は一生涯、二等兵であり続けようと考え、旅行に出るときなどは、軍服のズボンをはき、戦闘帽をかぶることにしている、という人だった。

もっとも、当時一三歳、高度経済成長期のただなかに育った私が、こんな戦中世代の心持ちをちゃんと理解できたはずがない。ここに述べたのは、松野さん本人が書き残されたものや、ご当人と親しかった人たちの証言から、いまになって教えられたことである。中学一年生のときの私は、戦争が終わって三〇年近くが過ぎているのに、まだ兵隊の姿のままでいる松野さん(このとき四〇代の終わりだったのではないか)を、ただ「変ったオジサン」だと思っていた。

とはいえ、そのときの写真を久しぶりに取り出して見ると、当時の松野さんの姿形は、

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