藤沢周・連作小説館③ 影踏み
藤沢周
藤沢周・連作小説館③
影踏み
藤沢周
淡い黄色。胡桃色。煉瓦に似た色……。
一〇月に入って、日ごとに色様々な枯葉が路面を覆うようになった。掃いても掃いても、朽ち枯れた葉は秋風に誘われるのか、枝を離れて、舞って、地に落ちる。
桜の落ち葉の複雑な色合いに見とれていて、ふと顔を上げれば、まだ葉をつけているものもあるとはいえ、節くれて繊細な枯れ枝が空の罅にも、黒い稲妻にも見える。
老い桜の枝々が秋空に凝っているのを見るのは、狂い咲いて爛れたような満開の景色よりいいのではないか。冬になれば、もっとその枝先の鋭い影は濃くなるのだろう。
まだ時々暑さがぶり返したりする初秋だが、マスクの内にあった真夏も、晩夏も、何をやっていたのか。
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