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鬼ものがたり

桑原茂夫

鬼ものがたり

桑原茂夫

第9話

灯りに映し出された美女 編

絵 東學

宮中で皇族の女性にお仕えしていた、小中将君こちゅうじょうのきみという妙齢のお方が、病を得て間もなくお亡くなりになりましたが、それなりに親しくしていたわたしにとっては、あまりに急なことでもあり、なんだか得心がいかず、お話を聞いていただこうと、こうしてやってまいりました。

この小中将君という方は、見た目も、そのたたずまいも、それはそれはうつくしく優雅で、そのうえ気立てもよく、わたしたち仲間内の評判も上々でした。嫉妬と羨望、はては陰謀まで渦巻く宮中でも、この方をわるく言うひとは皆無といっていいほどの、ほとんど奇跡的な存在でした。

これと決まった男性は、もちろんいませんでしたが、宮中に出入りするある貴族の方と、ときどきひそかに会ってはいました。そのことはたぶんわたしを含めて数人しか知らないことでした。

   ●

ある夕暮れどきのこと、それまで明るかった部屋に、じわじわと薄闇が広がっていき、とうとう燭台に灯りがともされたそのとき、薄闇のなかにぼんやり、ひとのすがたが浮かび上がりました。

はじめのうちは、なんとなくひとのかたちめいたものが見えていました。

鬼?

それだけでもわたしたちを驚かせるのにじゅうぶんなものがありましたが、鬼ではなく、しだいにあでやかな薄紅色の単衣をまとったすがたが、現れてきました。

息を呑む気配が部屋中に広がっていきました。だれからも、ことばが出てきません。

すっと立ったそのたたずまいといい、垣間見える白い肌、口を覆った袖の向こうに見える柔らかな眼差し、長い髪のつややかさなど、まさに小中将君そのままで、わたしは、鳥肌が立つほど、ぞっとしました。

そこに小中将君その人が、触れることのできないまぼろしとなって、立っているようにしか見えませんでした。

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