キャンペーン情報やWeb新小説の裏話も!公式Twitterはこちら  今すぐチェックする

『 鬼ものがたり 』

桑原茂夫

鬼ものがたり

桑原茂夫

第9話

灯りに映し出された美女 編

絵 東學

宮中で皇族の女性にお仕えしていた、小中将君こちゅうじょうのきみという妙齢のお方が、病を得て間もなくお亡くなりになりましたが、それなりに親しくしていたわたしにとっては、あまりに急なことでもあり、なんだか得心がいかず、お話を聞いていただこうと、こうしてやってまいりました。

この小中将君という方は、見た目も、そのたたずまいも、それはそれはうつくしく優雅で、そのうえ気立てもよく、わたしたち仲間内の評判も上々でした。嫉妬と羨望、はては陰謀まで渦巻く宮中でも、この方をわるく言うひとは皆無といっていいほどの、ほとんど奇跡的な存在でした。

これと決まった男性は、もちろんいませんでしたが、宮中に出入りするある貴族の方と、ときどきひそかに会ってはいました。そのことはたぶんわたしを含めて数人しか知らないことでした。

   ●

ある夕暮れどきのこと、それまで明るかった部屋に、じわじわと薄闇が広がっていき、とうとう燭台に灯りがともされたそのとき、薄闇のなかにぼんやり、ひとのすがたが浮かび上がりました。

はじめのうちは、なんとなくひとのかたちめいたものが見えていました。

鬼?

それだけでもわたしたちを驚かせるのにじゅうぶんなものがありましたが、鬼ではなく、しだいにあでやかな薄紅色の単衣をまとったすがたが、現れてきました。

息を呑む気配が部屋中に広がっていきました。だれからも、ことばが出てきません。

すっと立ったそのたたずまいといい、垣間見える白い肌、口を覆った袖の向こうに見える柔らかな眼差し、長い髪のつややかさなど、まさに小中将君そのままで、わたしは、鳥肌が立つほど、ぞっとしました。

そこに小中将君その人が、触れることのできないまぼろしとなって、立っているようにしか見えませんでした。

ここから先をお読みいただくには
会員登録をお願いいたします。

登録をするとすべての著者のバックナンバーをお読みいただけます。

最新号のコンテンツ

連載 連載小説 (2021年9月号)

猛獣ども

別荘地で熊に殺された男女…不穏な波紋の広がる先は。注目の新連載

連載 連載詩 (2021年9月号)

最少の言葉で詩作する試み

言葉の意味から滲み出すものを探る。最少の言葉で紡ぐソネット最終回

谷川俊太郎

連載 (2021年9月号)

週末のアルペジオ

走り去る列車が映し出す過去。適切な孤独が作り出すふたりの未来

三角みづ紀

連載 エッセイ (2021年9月号)

町田康の読み解き山頭火

一所不在の俳人・山頭火。作品を鑑賞しながら縦横無尽に人生をたどる

連載 イラスト評伝 (2021年9月号)

エピソードで知る種田山頭火

生涯を放浪の中に生きた山頭火。行乞の日々とはどんなものだったのか

春陽堂書店編集部

連載 動画 (2021年9月号)

待ってました! 黙阿弥歌舞伎への招待

坂東彦三郎の朗読とGIFアニメで楽しむ電脳紙芝居第6弾「髪結新三」

春陽堂書店Web新小説編集部

連載 エッセイ (2021年9月号)

兼好のつれづれ絵草紙

同じ言葉でも誰に言われるかで変わる?「おい、その咄誰に習った?」

三遊亭兼好

連載 ウェブ絵巻 (2021年9月号)

漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―

ロンドンで化学者・池田菊苗と共に過ごし、大きな刺激を受ける

連載 俳句鑑賞 (2021年9月号)

楸邨山脈の巨人たち

加藤楸邨門下を読み解くシリーズ。冷徹な作風の女流・寺田京子第一回

連載 医学ミステリー (2021年9月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

最晩年まで安定して執筆を続けた常識人・泉鏡花の稀有な作家人生とは

連載 動画&エッセイ (2021年9月号)

假屋崎省吾の絶品紀行~日々を華麗に彩る~

9月9日は重陽の節句。品格があり高潔な菊は大人の雰囲気にぴったり

假屋崎省吾

連載 紀行エッセイ (2021年9月号)

銭湯放浪記

ウワサの銭湯見たさに新幹線で京都へ。目の前に現れた贅沢な空間は?

連載 動画 (2021年9月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

熱海の物語と尾崎紅葉~Dr.米山の必見動画第16弾

連載 動画 (2021年9月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第4回配信

Web新小説会員登録はこちら