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『 藤沢周・連作小説館① 眼帯の下 』

藤沢周

藤沢周・連作小説館①


「眼帯の下」は、気鋭の作家、藤沢周がWeb新小説に初めて寄稿した書き下ろし短編小説だ。作家本人とおぼしき主人公が、コロナ禍に故郷の新潟を訪ねる私小説風の佳作である。物語は、主人公の幼い頃の「過去」と感染症がはびこる「現在」が交錯する。

「記憶は何十年も経ってから、刃を向けてくることもあるが、優しい陽だまりを見せてくれることもある」と語る著者。人間にとって記憶の本質を問いかける読切りの四〇枚である。


眼帯の下

藤沢周

もう白鳥もシベリアに帰ったのであろう。

茫漠とした田んぼを眺めているうちに、わだかまったように固まっている何軒かの民家や、幾重にも並んだ大型ビニールハウス、銀食器工場などが車窓のむこうをよぎり始める。昨年の冬に入りかけた頃は、冷え枯れた田んぼのあちこちに白い点々とした群れが、土の中をついばんでいたのが見えたものだが、三月の中旬ともなって、北の国へと飛び立ってしまったのだろう。

まもなく到着するという新幹線の車内のアナウンスに、左の眼帯の位置を確かめると、マスクの紐との重なりが耳の付け根に痛くて、小さく舌打ちする。まばらな乗客が棚の荷物を取ったり、デッキの洗面所に向かったりと動き出すのを感じながら、自分もコートの袖に腕を通し、マスクをさらにしっかりと鼻柱に押しつけた。

「昼、エキナカで、へぎ蕎麦にしますか。それとも、古町ふるまちか駅南の……」

「なんか、俺ら、いかにも東京から出張で来ましたー、って感じだよなあ」

「っすよねえ」

若いサラリーマン二人組の会話を耳にして、マスクの内で唇の片端を上げる。

新潟駅ホームにゆっくりと入った新幹線からは、在来線のホームが見えたが、そこにいる人々にとっては

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