山頭火と猫

町田康

山頭火と猫

町田康


自由律俳人種田山頭火が行乞流転の旅に出たのは四十四歳、大正十五(一九二六)年。風や雲の流れるままに、呼吸するごとく句作する一方で、苦悩を酒で紛らわす日々を送る。

そんな時、ふと出会った一匹の猫。猫はのどを鳴らしながら山頭火の膝の上にすわる。

昭和五年十一月二十九日、その年の九月から行乞の旅に出ていた山頭火は福岡の糸田の木村緑平方での句会に参加、食らい酔ってそのまま泊めて貰い、翌三十日は朝から雨、「こんな雨じゃ行乞なんてできないよ」と言ったかどうか知らないが、その日は夕方までウダウダして、だけど連泊はさすがに気が引ける。夕方に緑平方を出て、本来のポリシーに則ればその日は木賃宿に泊まり、翌日からまた行乞をしなければ

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