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猛獣ども

井上荒野

猛獣ども

井上荒野

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伴恭一

「恭ちゃーん、ちょっといい?」

階段の下から妻のレイカが呼んでいる。恭一はネット通販で届いたばかりの「鉱物育成キット」を組み立てている手を止めた。レイカは住居の一部で小さなヘアサロンを営業していて、今日はめずらしく客が来ている。

「ほーい」

あかるく応えて、階段を下りていく。下りると玄関ホールで、左側のドアが店、右側のドアがリビングに通じている。

「お呼びですか」

おどけた口調でドアから顔を出すと、「こんにちは。お久しぶり」とケープに包まれた女性が挨拶した。もう数年来、町からわざわざこんな山奥まで通ってきている人だ。

「ね、あれ何ていう薬だっけ。カマドウマに効くやつ」

鏡に映った恭一に向かってレイカが聞く。

「ああ、あれね。本来はカマドウマ用じゃないんだけど」

殺虫剤の商品名を恭一は教えた。ああ、それそれ。これが効くのよー。ありがとう、買ってみる。ホームセンターにあるかしら。女たちはしばらくやりとりしてから、あらためて恭一のほうを振り返った。

「ありがとうございます。お呼びたてしてすみません」

「カマドウマ、出るんですか」

「そうなの。なぜか今年大発生しちゃって」

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