『 スポーツは文芸をどのように彩ってきたか 』
玉木正之
スポーツは文芸をどのように彩ってきたか
玉木正之
第七回 人間雑誌『NUMBER(ナンバー)』の創刊号を飾ったスポーツ・ノンフィクション『江夏の21球』は、「人間・江夏」を読者に感じさせて成功した作品
1980年4月、文藝春秋社から創刊された雑誌『ナンバー』は、じつは「スポーツ雑誌」ではなく、スポーツを通して人間を描く「人間雑誌」というコンセプトでスタートした(と、前号で書いた)。
そのコンセプトは創刊号のメイン企画として掲載された山際淳司氏のノンフィクション作品『江夏の21球』にも貫かれていた。
1979年11月4日。大阪球場。3勝3敗で迎えた近鉄バファローズ対広島カープの日本シリーズ第7戦。4対3で広島リードの最終第7戦。9回裏近鉄の攻撃。マウンド上の広島のリリーフ・エース江夏豊は、無死満塁という絶体絶命のピンチを迎える。
これ以上の「ドラマ」のお膳立てはないという状況で、江夏は一人の打者をまず三振に斬って取る。そして次打者石渡のとき、彼が《今でもまだそんなはずがないと思っている》出来事が起こる。
スクイズを警戒していたピッチャー江夏が、見事にスクイズを見破り、
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