『 スーパーフィッシュと老ダイバー 』
岡本行夫
スーパーフィッシュと老ダイバー
岡本行夫
第9章 霊長類ヒト科という蛮族 ― 破壊
出発の日、ジョージはハンスに別れをつげた。
「ぼく、もういちど、旅だちます」
「うん、きょう、わたしは神にお祈りしたよ。この子を守ってやってくださいと。いっておいで。この海の出口のバブエルマンデブという海峡には、外洋に行くのに、右と左の水路がある。右の道をえらべば安全だ。そしたらアデン湾だ。そのさきはアラビア海、インド洋だ」
ジョージは、空気のバブルに身をつつんで、せいいっぱいのスピードで南に進んだ。ハンスの言った水路を通って、ついにアデン湾に出た。
これが外の海か! 潮の匂いも、逆まく波も、無限のひろがりも、流れの強さも、まったくちがう。イルカやマンタの大群がいる。みんな、のびのびと、自由に泳ぎまわってる!
ジョージは、しばらく感動に身をひたしていた。
(写真家 中村征夫氏 提供)
しかし、感激は長くつづかなかった。陸地にちかづくほど、海が汚れているのだ。ジョージは、さいしょの旅で、プラスチックごみのたまった海と、苦しむたくさんの魚を見たが、さらにすさまじい量のゴミが、海に投げこまれている。よごれきった廃水も、どんどん海に流しこまれていた。
さらに進むと、上から人間のどなり声が聞こえた。おどろいて海面から顔をだしたジョージのまえで、理解できないことが起こっていた。船の上で人間たちが争っていた。
上を飛んでいたカモメが、得意そうに説明した。
「あれは、
ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。