瀬戸内寂聴さん 惜しみなく与える人
宮川匡司
惜しみなく与える人
宮川匡司
瀬戸内寂聴さんとお話しする時間は、あっという間に過ぎていった。勤めていた新聞社の文化部の記者、編集者として、仕事の上での付き合いではあったが、テンポよく語られる話の中身に、いつも笑い転げて飽きることがなかった。
川端康成や円地文子、岡本太郎といった鬼籍に入った大家たちの素顔を伝えるエピソードには、人間の生身の姿が躍っていた。
「円地さんはね、川端さんが『源氏物語』を現代語に訳そうとしているという話を伝えると、『片手間なんかでできるわけがないでしょう』と憤慨したのよ」。寂聴さんが楽しそうに語った逸話ひとつで、「源氏物語」の現代語訳に打ち込んでいた円地文子の執念とプライドが、手に取るように伝わってきた。ひとつひとつの逸話は欲望、嫉妬、執念といった人間のさがを、逃さずに見つめている。寂聴文学の面白さもまた、この妄執に引きまわされる人間への深い関心に根差していた。
それにしても、寂聴さんはどうして、40歳近くも年下の私のような編集者にも、最初からいっさい分け隔てなく、
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