鬼ものがたり
桑原茂夫
鬼ものがたり
桑原茂夫
第2話
鬼になって思いを遂げた修験者 編
絵 東學
わが身を布で覆った、このようなナリで申し訳ありません。異形の者、まつろわぬ者として追われ、もはや逃げ場のないわたしゆえ、どうかおゆるしください。ただ、命を奪われる前に、ほんとうのことを言い残しておきたいという思いから、あなた様が鬼のことをまともに聞いてくださる方という噂をたよりに、やって参りました。
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わたしはつい先ごろまで、修験道の霊場として知られる山に籠もっていました。この世をこの世たらしめる、あらゆる規範からおのれを絶ち、絶対の孤独のなかで、自分のからだの奥深くへと降りて行き、そこにひそむナニモノかに触れ、ナニモノかと交わり、この世のものならぬナニモノかになろうとしていたのです。
やがて、空中にお椀を飛ばして食べものを得たり、瓶を飛ばして喉を潤す飲みものを得たりするくらいは、できるようになっていました。しかし、そうなるとますます道を究めたくなります。
ちょうどそんなときでした。ひとが恐れて入らぬ山奥まで、なんと宮中から使者がやってきて、お姿を見ることさえままならぬほどの、
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