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『これは、アレだな』 高橋源一郎ロングインタビュー

高橋源一郎

大切なのは弱い人の横にいること 



作家、高橋源一郎のエッセイ集『これは、アレだな』(毎日新聞出版)が、反響を呼んでいる。話題作や最先端の出来事には、実はそれとよく似たものが過去にもあった。今、注目すべき「これ」のエッセンスを、森羅万象のなかの「アレ」に発見して、今を見詰め直す。そんなエッセイを書き続ける狙いはどこにあるのか、作家に聞いた。 


聞き手は宮川匡司(ジャーナリスト)


分断をせずに、似ているところを探す

 ―― このエッセイ集は、週刊誌で今も続いている連載エッセイの単行本化ですね。なぜ、気になる「これ」を、ほかの「アレ」と結びつけて語る連載を始めたのですか。

最初は、「サンデー毎日」で連載してくださいっていう話がありました。普通のエッセイを書いてもあまり意味がない、せっかくだから、もうちょっと意味のあることをやりたいと、思ったんですよ。企画はぼくの持ち込みです。
 今は「これか、アレか」と対立を煽ることが多いでしょう。要するにお前はどっちだと、二者択一を迫る。敵か味方かです。インターネットが普及してから、みんながそういう方向へ向かっている。「これか、アレか」なんです。ネットを中心とした分断ですね。
 それとは、違うことをやろうと思いました。これとアレの違ったところでなく、似ているところを探す。それだと、やっていても楽しそうだし意義があるし、教養も利用できる(笑)。そう思って書き始めました。
 ちょうど(タレントの)滝沢カレンさんの『カレンの台所』(サンクチュアリ出版)を読んで「これは面白いな」と思っていたころでした。料理のレシピ本なのに、その言葉づかいが面白いんです。レシピを超えて文学に近づいている。これは、どこかで読んだことあるなと思って本棚の本を次々と調べてみました。それで、ついに谷崎潤一郎の料理小説『美食倶楽部』を思い出したんです。谷崎の『美食倶楽部』と『カレンの台所』、何の関係もないけれど、存在の仕方が似ていると思ったんです。
 関係のないもの同士の隠された関係を見つけてくるのは、面白い。昔から「これとアレは似ているよね」と、よく考えていましたから。

『これは、アレだな』高橋源一郎著 
毎日新聞出版 1650円(税込) 


 ―― 仕事の段取りは、どう進めていくのですか。

「これとアレ」の組み合わせが最初からわかっているわけではないんです。自分が最近好きなもの、だいたいそこから探すんですよ。例えば最近、将棋のフジイくん(藤井聡太棋士)に夢中になっているけれど、これって何かに似ているのではないか、とね。自分がその時点で気に入っているものがあって、何で気に入っているのか、考えるんです。

 ―― 毎週でしょう。普通は、行き詰まってしまうと思うんですよ。

大変ですよ。最初の20、30回は割と余裕で記憶をたどっていたんですけど、毎週やっていると、だんだんきつくなってきます(笑)。本も今は倉庫に入っていて、簡単に探すことができない。ほとんど買い直しですよ。かすかに読んだ記憶があるんで、もう一回取り寄せてみると勘違いだったなんてことも多いんです。

分からないことは高校生の子どもに聞きます

 ―― 取り上げる対象が、実に幅広い。文学はもとより、テレビ番組や音楽もあれば、漫画やアニメもある。実用書もたびたび登場します。どこからこんな引き出しが出てくるのですか。

ぼくはテレビ第一世代、漫画第一世代なんですよ。そういう意味で新しい文化が出てくるというときに、街頭テレビを見て、「少年サンデー」「少年マガジン」の創刊号を買いに行ったクチです。映画は中高生の時に、封切られる新作は邦画・洋画問わずほとんど見ていました。50年代60年代70年代はひとつの文化の復興期で、好奇心が大きい少年だったんで、吸収できたんです。
 もうひとつ言えるのが、わからないことは高校生の子どもに聞いているんですよ。「鬼滅の刃」とかね。わからなかったら、家にプロがいるので(笑)。たとえば、「今、面白いアニメなに?」と聞けば「無職転生」って、すぐに答えが返ってくる。子どもたちはアニメとか死ぬほど見ているでしょう。妻が音楽とかファッションとか大好きで、音楽については、ほとんど妻に聞いています。家にはプロが2人もいるんですよ(笑)。「今、ユーチューブ(YouTube)で何が面白い?」って聞いたら、すぐに、これとこれって教えてくれる。知識の源はあっちにある。ぼくは古い。ぼくの知識と彼らの知識をつき合わせると、「これは、アレだな」になる、という感じです。

 ―― 「どうやって見つけているのかな」ということが最大の謎だったんですが、その秘密が少しわかりました。いくら高橋さんでも、これはちょっと広すぎるのではないかと思っていましたから。

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