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『 もしもの日本史・創作シリーズ 光秀と藤孝 』

菊池道人

もしもの日本史・創作シリーズ

菊池道人

本能寺の変で織田信長を打倒した明智光秀が最も頼りにしていたのは細川藤孝(後の幽斎)。史実では藤孝は隠居して、光秀を見限った。しかし、藤孝の兄は信長のために自害に追い込まれていた。 もしもその時の怨念が蘇り、光秀に味方していたら、その後の展開はどうなっていたのか? 人間心理は複雑なものであり、ちょっとしたことで心の持ちようが変わり、それに伴う行動も異なるものとなっていく。そしてそれが歴史の流れを変えることも。

光秀と藤孝 第一回

「敵は四条本能寺、二条妙覚寺にあり」

光秀は全軍に告げた。六月二日未明、京都の西側を南北に流れる桂川を越えたところでのしばしの休息の後である。

すでにその意は従兄弟でもある明智秀満や斎藤利三ら数名の重臣には知らせてあったが、その他の兵卒には備中(岡山県)高松城を攻略中の羽柴秀吉への援軍に向かうと触れて、丹波(京都府)亀山城を出撃していた。

備中へ向かうためには老ノ坂峠を越えた後で沓掛(京都市西京区)から山崎(京都府乙訓郡)へ南下して、そこから西へ進行するはずである。しかし、光秀はその道と分かれたもう一つの道から洛中に馬首を向けた。

その理由は、本能寺に宿泊している光秀の主君である織田信長に謁見するためとしていた。が、果断なるを好む信長に対して、遠回りをしてまでの謁見など不自然である、と少なからぬ者たちは感じていた。

もはや本心を隠し通すことは不可能に近いと覚悟を決めて、光秀は冒頭の言葉を吐露したのである。

が、それを聞いた兵卒たちは驚きの色を隠せず、思わずそれを声にしている。

幾千人ものどよめきが光秀の胸を押しつぶすかのようだ。

このままでは士気は上がるはずもないと思った光秀は、もうひと押しと言葉を続ける。

「信長、信忠父子の悪逆はまさに天下の妨げである。これを討ち果たしてこそもののふの道にかなうものである」

光秀が特に力を込めて声にした「悪逆」という二文字の言葉に凝縮される所業。

例えば、信長の比叡山焼き討ちでは、かつて白河法皇が賀茂川の水の流れに賽の目と並んで我が意のままにならぬものとした僧兵たちのみならず、非武装の高僧、貴僧さらには女、子供までもことごとく殺戮した。

善良な者たちの命乞いさえ認めなかった。

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