岡本行夫「スーパーフィッシュと老ダイバー」希望と感動の最終回  今すぐチェックする

『 アーツ&クラフツ、娘の仕事 メイ・モリスという才能 』

大澤麻衣

アーツ&クラフツ、娘の仕事 メイ・モリスという才能

大澤麻衣

第6回 情熱のパフォーマー

子供の時、ちょっと特別な洋服を着せてもらえてウキウキした記憶がないだろうか。作り込まれた衣装に身を包み、いつもの自分と違う誰かを演じてみたい。そんな願望を、私たちの誰もが一度は持ったことがあるはずだ。

メイも根っからのパフォーマーだった。アーティストとして、著名人として、服装がいかに大事かメイは知っていた。時は19世紀後半。バッスルという腰当てを使った堅苦しいドレスが主流だったが、母ジェーンがメイのために選んだのは、流行に囚われないシンプルで実用的な服装だった。ファッションには積極的に関わらなかった父ウィリアム・モリスも、女性に対して「椅子みたいな突っ張った格好などやめ、女性のように柔らかく、流行に惑わされない自由な衣服を着るように」と言及したという。

© Victoria and Albert Museum, London

袖のゆったりとしたシンプルなベルベットのドレスで「演じる」メイ。ポーズも表情も、まるでラファエル前派の絵がそのまま写真になったかのようだ(1886年)

© Victoria and Albert Museum, London

19世紀半ばから20世紀初めに流行した「バッスル」。女性はこの腰当てでスカートをわざと膨らませた

もともと「普通」ではない家庭に育ち、すでに刺繍作家、デザイナー、教師として成功していたメイが、自分らしいファッションに興味を示したのは自然なことだった。残念ながらメイが作ったというドレスはほとんど残っていないため、彼女がどこまで極めたかの判断が難しいが、刺繍工芸に見せた技能と同じように、洋服に対する情熱も熟練したものだったことは間違いないだろう。

この時代のイギリスは、ヨーロッパの他の国々と同様、資本主義経済を疑問視する人々による社会主義運動が起きていた。その思想に賛同したウィリアム・モリスは、自ら社会主義同盟を結成する。メイも同ハマースミス支部に加入し、そこで耳にした激しい理想論に高揚し、積極的に学ぼうとした。父は娘たちに強制はしなかったが、メイが関心を示したことを素直に喜んだ。

ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。

最新号のコンテンツ

連載 連載詩 (2021年1月号)

最少の言葉で詩作する試み

自然は語らない、ヒトは混沌にいる。最少の言葉で詩人は今を紡ぎ出す

谷川俊太郎

連載 フォト小説 (2021年1月号)

スーパーフィッシュと老ダイバー

ジョージとハンスはそれぞれの新世界へ。希望と願いに満ちた最終回

連載 連載詩 (2021年1月号)

週末のアルペジオ

温もりが胸に落ち、隅々まで染みていく。目覚めた朝へ踏み出すために

三角みづ紀

連載 エッセイ (2021年1月号)

寺子屋山頭火

近親者の死と銭の苦しみ、不安定な精神を抱える山頭火を大震災が襲う

連載 イラスト評伝 (2021年1月号)

エピソードで知る種田山頭火

母親と弟の自殺、実家破産。山頭火を見舞う悲劇の連鎖が句作の源泉に

春陽堂書店編集部

連載 エッセイ (2021年1月号)

俳句で味わう、日本の暮らし

節分は旧暦新年・立春の前日。豆撒で邪鬼を祓う情感豊かな名句を鑑賞

連載 回想記 (2021年1月号)

旅する少年

キャロル、ほんやら洞、わいせつ裁判、思春期とSLラストラン撮影行

連載 医学ミステリー (2021年1月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

19歳で医学部を卒業した早熟の天才・森鷗外のエリートならではの苦悩

連載 動画&エッセイ (2021年1月号)

假屋崎省吾の絶品紀行~日々を華麗に彩る~

素材により表情が異なる花器。自由な発想で向き合うのがカーリィ―流

假屋崎省吾

連載 スポーツ随想録 (2021年1月号)

スポーツは文芸をどのように彩ってきたか

国の理想が揺らぐ時代の破天荒小説・ロス『素晴らしいアメリカ野球』

連載 妖異譚 (2021年1月号)

鬼ものがたり

燭台の灯りに浮かんだ小中将君。それは亡くなる直前の美しいまぼろし

連載 アート&エッセイ (2021年1月号)

伝統と破壊の哲学

トンボが水面に卵を産むように、僕は世界に自分の作品を産みつける

連載 新人デビュー小説 (2021年1月号)

愛のレシピ:23歳

たくさんの出会いと別れ、愛が育んだ味。私をつくった23年分のレシピ

連載 動画 (2021年1月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

「森鷗外の生き方にみる医学界の学閥」Dr.の必見YouTube好評配信中

連載 動画 (2021年1月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第2回配信

Web新小説会員登録はこちら