兼好のつれづれ絵草紙
三遊亭兼好
兼好のつれづれ絵草紙
三遊亭兼好
其ノ二「はばかりながら…」
楽屋で先輩咄家が何やら怒っている。
誰彼構わず捕まえては「やっぱりそう思うよなあ!」と鼻息が荒い。
咄家が口角泡を飛ばして何か論じている時はくだらない話をしている事が多い。
「お前はどう思う?」と私に目を合わせてくる。気づかないふりをして逃げるのが一番だが、あとで不機嫌になるのも面倒くさい。近所の野良猫を相手にする心持ちで声を掛ける。
「師匠、何を怒っていらっしゃるんですか?」
待ってましたとばかりに顔を近づけてくる。
「○○駅のトイレに入ったんだよ」
やはり、くだらない話の予感がする。
「そしたら、またあったんだよ、あの貼り紙」
「貼り紙?ですか?」
「そう、『いつも綺麗に使っていただいてありがとうございます!』ってやつ」
そう言って、お前なら分かるだろ?という高座でも見せない輝いた瞳で私を見る。「はぁ?」と古文書を
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