藤沢周・連作小説館⑩ 忘れ潟
藤沢周
藤沢周・連作小説館⑩
忘れ潟
藤沢周
「あんた、いくつになったんだろ」
ふと、一〇年ほど前に老母にそう聞かれたことを思い出していた。
唐突にだったのか、何か役所に出す書類のためだったのか。炬燵に入っていた母親が痩せて皺ばんだ顔を突き出しながらも、目元に笑みを浮かべて聞いてきたように思う。すでに認知症の兆しが覗き始めた頃で、こちらは帰省したばかりだったから、またさらに母の症状が悪化してきたかと嘆息したのを覚えている。
だが、もっと驚いたのは、私が口にしようと思った自らの歳だった。
「え?
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