鬼ものがたり
桑原茂夫
鬼ものがたり
桑原茂夫
はじめに
伝説の〈鬼〉にはどこか、ものがなしさが漂います。社会から疎まれ孤立し、それでも〈鬼〉として生きるしかない存在――それは王朝・貴族がその権勢をふるった古代平安期において際立っていました。
その頃語り伝えられた、〈鬼〉にまつわるエピソードは『今昔物語』にまとめられ、今に至るまで、えんえんと生き続けています。
この「鬼ものがたり」は、そのエピソードをもとに、現代に生きる〈鬼〉たちに向けて発せられる、激励のメッセージでもあります。
なお、どの「鬼ものがたり」も、そこに記された話になんらかの関わりを持つ人物(とは限りませんが)が、語り手となって進められます。
第1話
呪われた橋を強引に渡った若武者 編

絵 東學
わたしは、琵琶湖周辺の近江の国で、守の警護にあたっていましたが、その仲間がとんでもないことになりました。あろうことか、鬼に狙われ殺されてしまったのです。わたしも怖くなって、とにかくお話を聞いていただこうと、こうして参った次第です。
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つい先だってのことです。警護の任とはいえ、ふだんはハッキリ言ってヒマです。
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