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『 漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯― 』

大高郁子

漱石クロニクル

  ―絵で読む夏目漱石の生涯―

大高郁子

第五回 何もかも捨てる気で松山へ―子規に導かれ句作に熱中する

明治二十六年(一八九三年)二十六歳

 一月二十九日、積雪。

 外神田の青柳亭で開かれた帝国大学文科大学英文学談話会(第二十三回例会)で、「英国詩人の天地山川に対する観念」を講演し、注目を浴びる。(子規の出席を期待したが、現れなかった。子規は雪の中、会場へ向かったが、会費の十銭を持っていなかったため、途中で引き返していた)
「英国詩人の天地山川に対する観念」は漱石が編集委員を務める「哲学雑誌」に三月から六月まで連載され、評判になる。

 四月一日、実家を出て、本郷区台町四番地(現・文京区本郷五丁目三十一番地)富樫とがし方に下宿する。

 七月十日、帝国大学文科大学英文学科を卒業。英文学科の卒業生は漱石一人だけだった。英文学科の卒業生としては、立花政樹(明治二十四年卒業)に次いで二人目である。同期の卒業生として、中村是公(法律学科)、米山保三郎(哲学科)、菊池謙二郎(国史科)、斎藤阿具あぐ(学史学科)らがいた。

 引続き、帝国大学大学院に入り、「英国小説一般」をテーマに神田乃武ないぶの指導を受ける。英文学への自信は薄れていたが、創作で立つことへの考えもまとまらない。英文学への懐疑が強くなり《英文学にあざむかれたるが如き不安》(『文学論』序)を抱く。
談話「時機が来てゐたんだ――処女作追懐談」より
《卒業したときには是でも学士かと思ふ様な馬鹿が出来上がつた。それでも点数がよかつたので人は存外信用してくれた。自分も世間へ対しては多少得意であつた。たゞ自分が自分に対すると甚だ気の毒であつた。》

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