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楸邨山脈の巨人たち

北大路翼

楸邨山脈の巨人たち

北大路翼


第三回 金子兜太(三)


もどかしき晩年前期

四十代後半から熊谷に移り住んだのも大きな契機だった。写実的な句が増え、句材も身の回りのものに取材することが多くなってきた。複雑な句が減り、素直な句が目立つ。日常、生活というのは初期の頃からの一貫したテーマではあるが、一つの土地に落ち着くことでいよいよ確定的になったようだ。


  暗黒や関東平野に火事一つ

(『暗緑地誌』一九七二年刊)

この句は熊谷から都内に通勤する車窓で詠んだもの。「暗黒や」の歌い出しに、壮大な物語の始まりのようなスケールがある。「関東平野」という大景に、いつか関東という土に自分も還っていくのだという思いが込められている。


  廃材に猫がはさまる昼の月

(『狡童』一九七五年刊)

  海鳥が撃突おれの摩崖仏

(『旅次抄録』一九七七年刊)

  大頭の黒蟻西行の野糞(同)
  富士黒く露にまみれて嘔吐の態(同)
  梅咲いて庭中に青鮫が来ている

(『遊牧集』一九八一年刊)

  谷間谷間に満作が咲く荒凡夫(同)
  猪がきて空気を食べる春の峠(同)

定年以降の作品を見ていこう。

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