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変革に待ったは要らない  平野啓一郎ロングインタビュー(前編)

平野啓一郎

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変革に待ったは要らない 

平野啓一郎 ロングインタビュー(前編)


「小説には時代や現実を認識し、人の心を動かす力があると信じる」。平野啓一郎は、かつてそう語っている。日本と世界を脅かしてきたコロナ禍2年の現実を、このアクチュアルな作家はどうとらえ、何をすべきと考えているのか。時代の危機を見据える熱い声をお届けする。 


聞き手は宮川匡司(ジャーナリスト)


飲食店の業種転換へ政府は支援を

 ――この2年間、いろいろなことがありましたが、新型コロナウイルスの経験によって、我々はどう変わってきたのか。平野さんなりに、感じることはありますか。

かなり大きな変化があって、文化面、政治面とか、いくつか分けて考えることかと思います。働くということに関して、リモートワークは昔から言われてきていたにもかかわらず、なかなかできなかったことがかなり実践されましたし、それが可能だということが前提で郊外に引っ越した人もかなりいます。これはコロナが終わっても簡単には戻らないと思います。戻そうとする圧力もあるでしょうが、戻らない部分も相当あると思います。東京からの人口流出がこの2年間で進んでいます。東京一極集中の問題と働き方で言うと、かなり大きな変化だったなと感じますね。
 それに付随して、みんなで飲みに行こうとは、一部ではなっていますけど、なかなか、かつてのようにはならない。仕事の人と飲みに行くというのは、文化として、なくなっていくのではないかという気がしますね。

 ――飲食店は大変ですよね。

政府は現実的な支援として、業種転換のサポートもしないといけないと思いますね。飲食店を飲食店のまま継続したいという人たちもいて、そういう人たちを支えることも大事ですけど、中長期的に見て、業種転換を真剣に考えている人たちを支援しないと、ただお店がつぶれていくだけになってしまいますから。支援しながら次の職業につないでいくようなことを同時にやっていかないといけないですね。
 後は気候変動などの対策で飛行機での移動をなくしましょうと言われても、そんなことできっこないとみんな真剣に考えてきませんでしたけど、実際海外に行かない生活をこの2年間、みんなしていて、意外とそれで済んでいる、ということも分かりました。人の移動が出張も含めてどこまで必要なのかということを考えると、たとえば東京―大阪間の移動や出張も、かなりZoomとかで済んでしまうということになりますから、リニア(モーターカー)の計画とかも、まったく前提が変わってきてしまいました。
 本当のところ言うと、出張はちょっと楽しいというところもあったと思うんですよね。だからその意味で物足りないということもあって、出張も何らかの形で続いていくとは思いますが、数は相当減っていくでしょうね。

 ――すでに出張費の削減と交際費の削減を、年間計画に組み込んでいる企業も多いと聞きます。

リモート化で、オフィスもどんどん縮小していますし、僕のエージェントもオフィスを引き払って、すごく狭い仮のオフィスみたいな所にしてしまいました。大きなオフィスが必要ないとなってくると、新聞社なども、購読者の減少をテナント事業で補おうとしていた当初の計画を、変えざるを得ないだろうし、JRも新幹線の利用者を見込んでリニア(モーターカー)の計画を立てていた前提も変わってきます。そういう意味では産業構造全体に持続的なインパクトがあって、だからこそ戻そうとする圧力もあると思いますが、僕は、いったん合理化されたものは、それで問題ないのであれば戻さない方がいいと思いますね。

 ――旅行代理店も次々とオフィスをたたんでいます。

コロナが落ち着いたら、また増やそうと思えば増やすことはできるでしょうが、当面は維持できないというのは、その通りだと思いますね。
 講演会やシンポジウムもほとんどZoom(オンライン)になって、これまでは雑談のなかでいろいろな話ができるのがよかったので、それがなくなるのは残念ではあります。ただ、もともと開催場所が都市部に限られがちですから、地方の人がなかなか参加できないということがあったのですね。それがZoom講演になると、地方の人がアクセスできるとか、子育て中でなかなかイベントに行けなかったけれど、オンラインならば参加できる、という人たちも出てきました。今後はリアルな講演会が増えていっても、併用型になっていくのではないかと思いますね。
 仕事がどこにいてもできるということになると、基本的には海外にいてもできるわけです。欧米の出版社と付き合っていると、たとえばポーランドの学術出版社で、編集の本体はインドにありますとか、そういう話もあるんですね。印刷所だけがポーランド国内にある。日本企業も、海外に住んでいる個人や中小企業との仕事が、よりやりやすくなっているとは思います。

 ――平野さんが見たところでは、肯定的な側面が多いのではないですか。

そういう面もありますが、経済的に相当ダメージを負った人たちがいますし、コロナで家族を亡くしたとか、コロナにかかって苦しんだとかという社会的なトラウマは、10年単位くらいで尾を引く問題だと思います。そういう意味では、決して楽観はできないですね。

「日本はもう駄目だ」という現実を突きつけられた

 ――現在のオミクロン株の感染のスピードの速さは予想を超えていますね。2~3日で状況が変わっていきます。

発見されていなかっただけで、オミクロン株もすでに相当広まっていたみたいです。 ワクチンが想像もできないような速さでできて、クオリティも高かったというのは、新しい現象だと思いますし、それは資本主義的な競争のなかでできたことだと思います。ワクチンのディストリビューション(分配)に関しても、不平等が生じているというのはその通りなのですが、必死になって製薬会社が開発したのは、資本主義のなかの競争の結果でしょう。

 ――そのワクチンの競争では、アメリカ(合衆国)が強いという結果になっています。

日本はもうすごくないというのが分かりきっていることなのに、この十数年間、「日本はすごい」という、追い詰められた果ての強がりのような風潮がありましたが、さすがにもう、駄目になっているという現実を突きつけられたのが、コロナだったと思いますね。

 ――失われた20年と言われつつも、「日本の製造業は強い」などといった反論も、ありましたよね。

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