気まぐれ編集後記
春陽堂書店Web新小説編集部
気まぐれ編集後記
「私の顔、笑い顔なんです。すっごく嫌だった」そんなことを十代後半の女性から言われた。ぽっちゃりとしていて二重まぶたでいつもニコニコしているのに、自分の顔が嫌いだったと言う。
理由はこういうわけだ。小学生の時に親類の葬式に出て、母親から「もっと悲しそうな顔をしなさい」とたしなめられたのだった。「お葬式でしょ」の言葉がトラウマになった。一番近い家族から言われたのだからショックは大きい。自分は悲しかったのに、そんなひと言を言われた。
「それから鏡を見て一生懸命、真面目な表情を作る練習をしました」
だが、そんな練習でこころの痛みは消えない。
転機が訪れたのは父親が亡くなって、母親が再婚した時だった。母親から「お父さんがあなたの笑顔、かわいいって言ってるの。私も嬉しくなったわ」。
それ以来、自分の顔に自信を持てるようになったという。傷つけたのも家族のひと言だったが、救ったのも家族のひと言だった。
「笑い」の特集を編集しながらそんなことを思い出していた。
(本誌編集長)
【ご感想はこちらからお送り下さい】
Web新小説のSNSでアップさせていただく場合もあります。(ハンドルネーム可)