二匹のリュウちゃん
東山彰良
二匹のリュウちゃん
東山彰良
子供のころ、猫をかどわかしたことがある。
台湾から日本へ越してきた私たち一家は、一九七三年から七五年まで広島に住んでいた。いくら私が向こう見ずでも、日本にやってきていきなり見ず知らずの猫を拉致するはずがないし、私たち家族は七五年にはまた広島を離れて台湾に帰ってしまうので、それはおそらく一九七四年のことだったのではないかと思う。
もしそうなら、猫を誘拐したとき、私は六歳だった。
台湾での私たちは、いわゆる外省人だった。それはつまり、国共内戦で中国共産党に敗れて台湾に追い
登録初月は無料
ここから先をお読みいただくには
会員登録をお願いいたします
登録をすると、創刊号(2020年2月1日号)からのバックナンバーをすべてお読みいただけます。