楸邨山脈の巨人たち

北大路翼

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第十回 古沢太穂 抒情と思想と(二)


たたかいの果てに

社会性俳句の衰勢は、俳句の根本に関わる問題である。一つは流行り廃りの問題、一つは思想性の問題である。

流行り廃りの問題は、前回指摘したように、盛り上がれば盛り上がるほど、その事柄に関しての興味が一過性のものになる懸念である。流行とはそもそも一過性の現象である。個人の興味を超えて、世の中がある方向に流れる現象だ。誰でも世の中に属しているので、そこに関心が向くことは仕方がない。だがそれはただの関心であって、心の葛藤と呼べるものではない。関心と感動は違う。関心では日記や報告のレベルを超えることは難しい。俳句とは個人の感動を描くものである。そこに深い体験や感動がなければ、十七文字に命が与えられることはないだろう。

もう一つの問題は、俳句は思想を直接表現するには向いていないということである。


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