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漱石クロニクル ―絵で読む夏目漱石の生涯―

大高郁子

漱石クロニクル

  ―絵で読む夏目漱石の生涯―

大高郁子

第七回 ロンドン留学・前編―「下宿ニテ日本ノ前途ヲ考フ」

明治三十三年(一九〇〇年)三十三歳

 八月二十六日、寺田寅彦と共に子規庵を訪れる。
『寺田寅彦全集 第十八巻 日記1』より
《形ばかりの祖神祭をなす。壇に白布を敷き、梨水桃葡萄、バナゝなど供へまつる。枝豆と手製のすしに葡萄酒もあり、陶然として酔ふ時風鐸ふうたく鳴る。漱石師来たり共に子規庵を訪ふ 谷中の森にひぐらし鳴いて踏切の番人寝惚ねぼけ顔なり》

 漱石が子規に会ったのは、この日が最後となる。子規は「漱石を送る」と前書きをし、句を送った。

 九月八日、午前五時四十五分、新橋停車場を出発、六時四十分、横浜停車場着。埠頭に赴き、プロイセン号に乗り込む。一行は戸塚機智(軍隊医学)、芳賀矢一(国文学)、藤代禎輔(ドイツ文学)、稲垣乙丙(農学)である。鏡子と狩野亨吉、寺田寅彦らが見送る。ラ・マルセイエーズが奏でられ、午前八時に出港する。

寺田寅彦「夏目漱石先生の追憶」より

《先生が洋行するので横浜へ見送りに行った。船はロイド社のプロイセン号であった。船の出るとき同行の芳賀さんと藤代さんは帽子を振って見送りの人々に景気の好い挨拶を送っているのに、先生だけは一人少しはなれた舷側げんそくにもたれて身動きもしないでじっと波止場を見下ろしていた。船が動き出すと同時に奥さんがハンケチを当てたのを見た。「秋風の一人を吹くや海の上」という句を端書はがきに書いて神戸からよこされた》

 一行は中等船室だった。船に弱かった漱石は遠州沖にかかると既に船酔いし、食事もできなくなる。
漱石の日記より
《横浜発遠州洋ニテ船少シク揺ク晩餐ヲ喫スル能ハズ》

 九月九日、午前十時三十分、神戸港に着く。大阪に住む鈴木禎次、時子(鏡子の妹)夫妻が見送りに来たが、行き違いで会えなかった。しかし時子から餞別の万年筆は届けられた。

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