町田康の読み解き山頭火
町田康
町田康の
読み解き山頭火
町田康
第七回「酔うてこほろぎと寝てゐたよ」二
昭和五年十月七日、酒好き女好きの遍路と飲んだ、山頭火が「行乞記」十月七日条に記した句は、「酔うてこほろぎといつしよに寝てゐたよ」そして、十月九日これを、酔うてこほろぎと寝てゐたよ、として、いつしよに、と言わないから、誰にでも、なににでも当てはまる文句になって、いつしよに、と言われるより、より心に染みこんでくる。
こういうときに、「染みこんでくんな」と思うだろうか。俺は思わないで、勝手に染みるままにさせている。だから俺の心はいつも汚れて穢らしいのである。だけど、人間の心というものは、頭の働きというものは、そもそもそのように穢らしいものである、と俺は思う。だから、ツルツルピカピカの心を見ると、噓くさいと思ってしまう。
銭を遣って常に磨かせているか、そもそもまがい物かも、と疑ってしまう。それというのも俺の心が汚れている
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