登録初月は無料、バックナンバー【作家69人、連載回数462回】も読み放題! 会員登録はこちら  今すぐチェックする

Looking for 鷗外

伊藤比呂美

Looking for 鷗外

伊藤比呂美

1

森鷗外が今生きていたら、Twitterで時事について熱心に発信していたのではあるまいか。そしたら瞬く間に炎上して、そのたびに相手と熾烈な論争をした。文学者であるとともに政府高官だから、ときに政治的に偏ったこともtweetし、あるいは高官としてお上に物申す的なこともtweetし、またまた炎上して論争した。そんな鷗外像は想像していなかったので、その可能性に気がついたときには驚いた。

数年前に私は『切腹考』という本を書いた。私は鷗外を読んできたが、小説の内容には興味がなかった。鷗外のふと現れる語尾の「のである」に取り憑かれて数十年、いや少し盛りました、でも少なくとも十数年、それについて考えてきた。それを解き明かしたかった。
それから鷗外の書く女が、どれも似通っているのが気になって仕方がなかった。同じ女ばっかり出てくる。ひとりの女をくり返しくり返し書いているようだ。どこからこの女ができてきたのか。妻のしげさんか母のみねさんかと思う以前に、私ではないかと思っていた。

それから切腹について考えたかった。「阿部一族」の人々の切腹、「興津おきつ弥五右衛門やごえもんの遺書」の切腹についても考えたかった。
私は熊本在住で、私の家から熊本城が見える。熊本地震の後、立て直された天守閣は、ハリボテの模造品にすぎないから、夜になるといかにも模造品らしくライトアップする。日によって赤だったり紫だったりする。その色には何かと理由があるようだ。3月には青と黄色に染められていた。古くからある貴重な石垣はまだ修復中、ひとつひとつの石にナンバーが振られて置いてある。昔、お城からまっすぐに下っていったところに藩主の館があった。その道は地震以来封鎖されて使えなくなっている。その館から南へ数百メートル行けば、阿部一族の屋敷があった。今はRKK熊本放送の建物の一角で、小さな碑が立っている。その脇の路地にだいだい書店という小さな本屋があり、私はときどき行って本を買う。そのあたりを通りかかるたびに、聞こえただろうと、私は毎回同じことを考えるのだった。藩主光尚が聞いた阿部家討ち入りの音や声を想像するのだった。

さて、今年は鷗外生誕160周年。そして没後100周年。鷗外イヤーである。それなのに、折からのコロナ禍もあり、何にもする気になれない。それでドイツに行こうと考えた。というとかっこいいが、実は、優柔不断な私の、なかなかつかない決断を決断するのが面倒臭くなって先延ばしにするという悪癖によるのだった。

登録初月は無料

ここから先をお読みいただくには
会員登録をお願いいたします

登録をすると、創刊号(2020年2月1日号)からのバックナンバーをすべてお読みいただけます。

最新号のコンテンツ

山頭火特集 (2022年12月1日号)

さびしさの自由律 ──山頭火に想う 片岡鶴太郎インタビュー

名俳優として活躍の鶴太郎さん。その心に去来する山頭火への感傷─

片岡鶴太郎

山頭火特集 (2022年12月1日号)

「行乞記」「其中日記」

山頭火は日記に嘘を書かなかった。すべて直球である。そこにあるのは熱と力

山頭火特集 (2022年12月1日号)

山頭火の後ろを歩く

山頭火の句から書き起こされるエッセイと俳句、写真による3つの情景

山頭火特集 (2022年12月1日号)

いつだって、どこででも ──共感の青い山

山頭火の自由律俳句は現代人が抱える苦悩に通底する……

特集 (2022年12月1日号)

特集とりとめな記

特集で編集者が気付いたあれこれ

特集編集班

連載 時をめぐるエッセー (2022年12月1日号)

SNS(喧騒)から少し離れて

様々な料理名の由来の不思議。名づけに見る多様性の本当の価値とは

連載 書き下ろし連作小説 (2022年12月1日号)

藤沢周・連作小説館⑩ 忘れ潟

何もできない、何も考えられない。気づくと故郷の潟の辺に立っていた

連載 俳句鑑賞 (2022年12月1日号)

楸邨山脈の巨人たち

変化を好む俳人・和知喜八最終回。晩年に惹かれていた句材を探る

連載 猫エッセイ (2022年12月1日号)

Q&A今月の猫じゃらし

あなたの猫、「こんなもん、食えるか」って表情しませんか? その本当の意味は??

連載 俳句エッセイ (2022年12月1日号)

アマネク ハイク

クリスマスの贈り物に「鹿2頭」。息子の破天荒な願いを聞く母の思い

編集後記 (2022年12月1日号)

気まぐれ編集後記

徒手空拳? 本来無一物? そこに憧れはあるが、共感はないのだ

春陽堂書店Web新小説編集部

バックナンバー (2022年12月1日号)

オンライン対談 谷川俊太郎×俵万智 バックナンバーの部屋

言葉の達人二人がオンラインでとことん語り合う奇跡の対談動画155分

谷川俊太郎×俵万智

バックナンバー (2022年12月1日号)

町田康の“山頭火”はここで読める

山頭火の生き方、句の魅力を町田康が読み解く二つのシリーズを読む

バックナンバー (2022年12月1日号)

井上荒野の話題作「猛獣たち」のバックナンバーの部屋

別荘地で熊に殺された男女…。スリリングな展開に心を奪われる話題作

バックナンバー (2022年12月1日号)

歌舞伎役者.坂東彦三郎朗読動画バックナンバーの部屋

坂東彦三郎が朗読。河竹黙阿弥の歌舞伎狂言12選 絵は辻和子

春陽堂書店Web新小説編集部

バックナンバー (2022年12月1日号)

三遊亭兼好の“絵草紙”はここで読める

人気落語家の軽快な語り口が冴えわたるイラストと楽しむ絶品エッセイ

三遊亭兼好

バックナンバー (2022年12月1日号)

大高郁子の漱石の一生

1200点以上の愛らしい絵をスクロールしてふり返る文豪夏目漱石の生涯

バックナンバー (2022年12月1日号)

「芸術家の生き様を医学で考える」米山公啓の部屋

文豪の生き様を知れば今の自分が見えてくる! エッセイと動画で学ぶ

バックナンバー (2022年12月1日号)

岡もみじショートショート漫画バックナンバーの部屋

妄想膨らむ楽しい「しおり物語」の世界へようこそ! 全6回一気読み

春陽堂書店Web新小説編集部

登録初月は無料

Web新小説会員登録はこちら