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『 俳句で味わう、日本の暮らし 』

黛まどか

俳句で味わう、日本の暮らし

黛まどか

第十二回 節分

雑節の一つで、立春の前日。節分とはもともとは季節の分かれ目を意味し四季それぞれにあり、立春、立夏、立秋、立冬の前日をさす。〝節替せつがわり〟〝節分せちぶ〟とも。各節分には祓を行ってきたが、旧暦の時代は立春が新年でもあったため、立春の節分にはさまざまな年越しの行事が行われた。

〝豆撒〟〝鬼やらひ〟もその一つで、炒り豆を撒いて邪気を祓う。古くは中国の〝追儺ついな〟に始まり、八世紀初期に日本に伝わって宮中の行事となった。〝儺〟は疫病神のことで、大晦日の夜、鬼に扮した舎人を内裏の四門をめぐって追い回す。疫病神を祓う役の方相氏ほうそうしは大舎人長が務め、黄金四つ目の仮面を被り、黒衣朱裳を着て、手に矛と楯を持つ。これを〝大儺〟と呼び、大儺に従い駆け回る童子を〝小儺〟と呼んだ。殿上人は桃の弓、葦の矢で鬼を射る。日本の追儺では方相氏が鬼に逆転していて興味深い。

追儺の行事は近世に入って節分の行事として民間でも行われるようになった。豆を撒くのはその年の年男。豆撒きの後で、自分の歳の数だけ豆を食べる習慣は、かつて新年を迎えると年齢を一つ加える「数え年」の年取りの儀式の名残である。家々では柊の枝に鰯の頭を刺したものを戸口に立て、鬼が入らないようにする。

豆を打つ声のうちなる笑かな

宝井其角

其角は芭蕉十哲の一人で江戸前期の俳人。芭蕉没後、洒落風を興して江戸座を開いた。

節分の夜、神仏に供えた豆を「鬼は外!」「福は内!」と囃しながら撒く。娯楽が少なかった時代のこと、豆撒は庶民にとって楽しみなイベントの一つでもあっただろう。豆を枡に入れ、逃げ回る鬼を追いかける人々。邪気や疫病神が家から退散するように、福を呼び込むようにと大きな声を上げて豆を打つ。

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