テル、の一生。
永井みみ
テル、の一生。
永井みみ
死因は、スペイン風邪だった。
テル、十一歳のときだった。
実母はテルを産んですぐ、折り合いの悪かった姑に家を追われ、隣の村で再婚をした。
尋常小学校の校門で、赤ん坊を背負った実母は、テルの帰りを待っていた。
「テルや、これ」
半紙に包んだ菓子を、たもとにねじ込む。
テルは、実母の姿が見えなくなると、道端の屑籠に、半紙ごと、菓子を、棄てた。
姑はテルに、実母の不実を吹き込んでいた。
「テルちゃん、これ」
継母は、テルに、好かれたかった。
呉服屋を呼び、縁側で茶を供し、花柄の赤い反物をテルの肩にあてがった。
その手を払い、テルは、
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