寺子屋山頭火
町田康
寺子屋山頭火
せっかく東京で得た図書館の仕事もやめてしまった山頭火。安定した収入を捨てたのだから、正社員を辞してフリーターに逆戻りしたようなもの。さて、その原因は何だろうか。
町田康
第十一回 図書館退職する
大正十五年四月、山頭火が、負うて負いきれない荷物を背負って行乞流転の旅に出た、その理由の一つは銭の労苦ではないのか、と考えて、スーパーマーケットの店内を流転してきたが、せっかく得た正社員というか正規職員の職を辞してしまう、安定的な立場をいともあっさりと捨ててしまうといった行動から、やはり銭以外の深甚な問題が山頭火のなかにあったのではないか、ということになったのは、まあ考えてみれば当たり前の話である。
人間がなにか行動するとき、その理由は一つではない。
それもあるがあれもある。あれもあるがこれもある。という具合に過去現在未来を貫くいろんな事柄がいろんな風に絡み合い、もつれ合って、できた模様とも言えない模様が、人間の行動パターンで、専門家はこれを称して、「人間模様」と呼ぶ(らしい)。
だから医者とか学者とかはじっきに「これが原因ですら」と言うが、それは事実(というか現実)の一端に過ぎず、それですべてが分かるわけではない。
〽おーらグズラだど、ヒヒヒッヒイ。
と歌いながら家に帰ってもらいたいものだ。そしてネットも禁止。
なんて言うのは言論封殺だ。そんなことを言って真っ先に、「おまえは黙っとけ」と言われるのはこの俺なんだよ。
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