江戸の愛猫
宮川匡司
江戸の愛猫 歌川国芳(四)
宮川匡司
涼み舟、人の心情 巧みに映す
歌川国芳が描いた戯画の中には、人間が日々の生活の中でする様々な振る舞いを、動物が代わりに行う絵がある。キツネやタヌキ、スズメにカエル、金魚と、登場する生き物は多彩だが、猫が主役となった場合には、その擬人化は、とりわけ精妙な印象がある。
『猫のすゞみ』を見ていただきたい。国芳の数ある猫の絵の中でも、出色の作品の一つ。絵の周囲がくぼんだり曲がったりしているのは、この絵が団扇に張るために描かれた団扇絵だからである。浮世絵研究家の岩切友里子氏によれば、制作年代は天保12年(1841年)ごろ。場面は、夏の夕べの情景だ。
日が落ちかけた川の桟橋で、芸者の姿をした猫が、舟に乗り込もうとしている。それを待ち受ける船頭は、桟橋の杭につかまりながら右手を差し出して、猫の芸者を舟に乗せようとする。舟の中では、客の猫が、芸者猫の様子をうかがうように、身を乗り出している。
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