『 伝統と破壊の哲学 』
増田伸也
伝統と破壊の哲学 Vol.10
「なぜ僕は写真で世界を目指すのか」
増田伸也
HANAFUDA SHOUZOKU#53, 2017, Shinya Masuda
「ピンクの雪だるま」
今思えばあれが僕にとっての初恋だったのかもしれない。
増田少年が黒板と教壇の間の指定席に座るようになるもっと前の話である。
生徒たちは通常2人用の頑丈な木製机を使用することになっていた。
使い古されたその机には、歴史を物語る栄光のキズ跡が残されていた。
ニードルで意図的に掘られた穴のある机は密かに男子生徒たちの人気を博していた。消しゴムの削りカスを丸め、ゴルフと称し仲間うちで遊べるからだった。
2人用の机はバディとしての仲間意識を高めることにも一役買っていた。
2人で1冊の教科書を使用する場合には、両端を2人で持つことになり、このような共同作業が、譲り合いや相手を敬う気持ちを育んでいく。
しかし、低学年ではまだまだ修業が足りずお隣さんとの仲が悪くなってしまう例も多々あった。
こういった生徒たちは境界問題を抱えることとなる。
境界線として机の真ん中に鉛筆で濃く引かれた線があるのだが、その線から消しゴムがわずかに相手側にはみ出したりしたらもう大変。猛烈な抗議を受けることになりかねない。ときには掴み合いの大喧嘩に発展する。
いつの間にか「空中はありね。セーフ、セーフ」と机の上の空間で境界を侵し、お隣さんを挑発してくる男子もいるから紛争は絶えなかった。
さて、僕のクラスでは2学期が始まって早々に席替えが行われた。