『 文芸放談 オカタケ走る! 』
岡崎武志
文芸放談 オカタケ走る!
第1回ゲスト 評論家 小田光雄さん
岡崎武志
枯れゆく古書の森を僕らはいかに再生していくべきか? ~その3~
第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞の評論家、小田光雄さんをお迎えしての対談もいよいよ最終回。ともに出版業界の住人であるお二人は縦横無尽な話題で盛り上がり中。果たしてそのトークが行きつく先は?
撮影:目黒秀綺
小田光雄(おだ・みつお)
評論家、翻訳家。1951年静岡県生まれ。『<郊外>の誕生と死』『郊外の果てへの旅/混住社会論』『図書館逍遥』『書店の近代』『出版状況クロニクルI~V』『古本探究I~III』など出版に関する著書多数。エミール・ゾラ『ルーゴン・マッカール叢書』など、訳書も多い。『古本屋散策』で第29回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞
岡崎武志(おかざき・たけし)
文筆家、書評家。1957年大阪府枚方市生まれ。高校の国語講師、出版社勤務を経て文筆家に。「神保町系ライター」「文庫王」「均一小僧」などの異名でも知られる。『読書の腕前』『女子の古本屋』『上京する文學』『ここが私の東京』『古本道入門』『人生散歩術』など著書多数。近著に『これからはソファーに寝ころんで』
大正時代に花開いた日本の出版文化
この本『古本屋散策』を読んでも、驚きがあって、知る喜びに結びついて、知ったことからどんどん数珠つなぎ的にイモ掘りをするみたいに、情報が出てくるみたいな話があるじゃないですか。これ、基本ですよね。
これから古書会館でする(小田光雄さんの講演)話っていうのは、それに絡んでいる。日本で出版が盛んになったことと、世界的に「知ることの発見」というのが同時に起きてるんですよね、20世紀で。それは日本でいえば大正時代で、現在につながる出版と全部そこに重なってるんですよ。平凡社とか、出版社が多くこの時期に出来てきた。
大正末年から昭和初年には、各種円本と呼ばれる全集が発行される。
うん。それは円本という大量消費として集成されて、それが「知ることの集成」でもあったみたいなことですよね。戦前からのさまざまな出版事情の名残で、ずっと今までやってきたというのが僕なんかの判断ですよね。
日本人は勉強好きっていうか、真面目で勤勉で、明治期に識字率が上がり、その受皿として出版文化っていうのもずっと継続されて、大正時代ぐらいに一遍花開いたということでしょうか。
ところが大正時代っていうのはロシア革命と第一次世界大戦、それから関東大震災があったでしょう。マスメディアの発達があり、モダニズム文学も生まれた。島田清次郎の『地上』なんていう、大ベストセラーが出たり、いろいろありすぎて全貌が分からない。僕もお金があれば大正のことをやりたいって言ってたんだけど、金があっても、もう年齢的に無理だな(笑)。それと、大正で言えば、結局『大正文学全集』ができなかったことが問題だ。
明治も昭和も名を冠した文学全集はあるけども。
うん。ところが企画していた筑摩書房が、ほら倒産したでしょう。それで企画がつぶれちゃったんですよ。それで明治、昭和があって、大正が出なかった。全50巻なんですよ。それで企画が福武書店へ行ってダメで、小学館行って、全部つぶれた。