岡本行夫「スーパーフィッシュと老ダイバー」希望と感動の最終回  今すぐチェックする

『 愛のレシピ:23歳 』

下平咲

愛のレシピ・・23

下平咲

うまい棒の恋人

私の母は恋多き女だった。

離婚して間も無く、母は私と兄を連れて長野から東京に引っ越した。
祖父母が持っていた永田町のマンションの505号室に、母、私、兄の3人と、その頃母と付き合っていた春日さんという男も一緒に暮らすことになった。

母のアルコール依存症を治す手助けをするという条件付きで、祖父母は彼と私たち家族が一緒に住むことを認めたのだった。

しかし実際のところ、母にベタ惚れだった彼は、母のお酒を止めることは一切せず、毎晩のように彼女と一緒に飲みまくっていた。
そんな彼のことを、兄はあまり好きではなかった。春日さんもそれを察していたようで、兄と彼の間には、どことなく距離があった。反対に私は誰に対しても人懐っこい子どもだったので、彼にもすぐになれた。

春日さんは兄と私から気に入られようと、毎日のように私たちへプレゼントを買ってきた。お風呂で遊ぶ潜水艦やカエルのおもちゃ、ぬいぐるみにプラレールなど。彼は子どもの喜ぶものがなんなのか、よく分かっていた。流石の兄も、プレゼントを貰った時は嬉しそうに春日さんにお礼を言った。

彼が買ってくるものの中でも、特に私たちが喜んだのが、うまい棒のバラエティーセットだった。
15種類の味が各2本ずつ入っているもので、普段駄菓子など食べさせてもらえない私たちには、どんなものよりも特別に思えた。

一度、食べ終えたうまい棒の袋を母がゴミ箱の中で発見し、春日さんはこっ酷く怒られたことがあった。それからしばらくの間、彼は母に口をきいてもらえなかった。

そんなことがありながらも、うまい棒はその後も、母の目を盗み見ては「ママには秘密だからな」と言って、私たちに買い与えられた。

ここから先をお読みいただくには
会員登録が必要です。

最新号のコンテンツ

連載 連載詩 (2021年1月号)

最少の言葉で詩作する試み

自然は語らない、ヒトは混沌にいる。最少の言葉で詩人は今を紡ぎ出す

谷川俊太郎

連載 フォト小説 (2021年1月号)

スーパーフィッシュと老ダイバー

ジョージとハンスはそれぞれの新世界へ。希望と願いに満ちた最終回

連載 連載詩 (2021年1月号)

週末のアルペジオ

温もりが胸に落ち、隅々まで染みていく。目覚めた朝へ踏み出すために

三角みづ紀

連載 エッセイ (2021年1月号)

寺子屋山頭火

近親者の死と銭の苦しみ、不安定な精神を抱える山頭火を大震災が襲う

連載 イラスト評伝 (2021年1月号)

エピソードで知る種田山頭火

母親と弟の自殺、実家破産。山頭火を見舞う悲劇の連鎖が句作の源泉に

春陽堂書店編集部

連載 エッセイ (2021年1月号)

俳句で味わう、日本の暮らし

節分は旧暦新年・立春の前日。豆撒で邪鬼を祓う情感豊かな名句を鑑賞

連載 回想記 (2021年1月号)

旅する少年

キャロル、ほんやら洞、わいせつ裁判、思春期とSLラストラン撮影行

連載 医学ミステリー (2021年1月号)

Dr.よねやまの芸脳生活 芸術家の生き様を医学で考える

19歳で医学部を卒業した早熟の天才・森鷗外のエリートならではの苦悩

連載 動画&エッセイ (2021年1月号)

假屋崎省吾の絶品紀行~日々を華麗に彩る~

素材により表情が異なる花器。自由な発想で向き合うのがカーリィ―流

假屋崎省吾

連載 スポーツ随想録 (2021年1月号)

スポーツは文芸をどのように彩ってきたか

国の理想が揺らぐ時代の破天荒小説・ロス『素晴らしいアメリカ野球』

連載 妖異譚 (2021年1月号)

鬼ものがたり

燭台の灯りに浮かんだ小中将君。それは亡くなる直前の美しいまぼろし

連載 アート&エッセイ (2021年1月号)

伝統と破壊の哲学

トンボが水面に卵を産むように、僕は世界に自分の作品を産みつける

連載 新人デビュー小説 (2021年1月号)

愛のレシピ:23歳

たくさんの出会いと別れ、愛が育んだ味。私をつくった23年分のレシピ

連載 動画 (2021年1月号)

Dr.よねやまの芸脳生活

「森鷗外の生き方にみる医学界の学閥」Dr.の必見YouTube好評配信中

連載 動画 (2021年1月号)

町田康のパンク山頭火ラヂオ

徒然なるままに山頭火を語る町田版自由律YouTube。注目の第2回配信

Web新小説会員登録はこちら