冬ごもりと居眠り
坪内稔典
冬ごもりと居眠り
坪内稔典
「冬ごもり」という言葉がある。俳句の季語にもなっていて、手元の俳句歳時記を開くと、「冬の間、厳しい寒さを避けて、戸外へ出ないで家に篭もって暮らすことをいう。かつての雪国では、特に老人などは、囲炉裏や炬燵を離れずに一冬を過ごした」と解説されている(『読本・俳句歳時記』)。
右の解説の「かつての雪国」とは石油、電気、ガスなどによる暖房が普及する以前、すなわち人々が薪や炭で暖をとっていたころの寒い地方だ。私の小学生のころ、一九五〇年前後だが、わが家は薪や炭で煮焚きをし、そして暖もそれらでとった。
先日、近所に住む高校生の孫が来た際、読書の話になって、「そういえば、風呂の焚き口が冬の読書の絶好の場所だったよ。マンガの赤胴鈴之助や江戸川乱歩の少年探偵団を風呂を焚きながら読んだなあ」と話したら、「風呂を焚く」とか「焚き口」が孫には通じなかった。それらを説明していると、「じーじは大昔から来た感じだよ」と孫は私を見つめた。
少年時代、暖をとるのは火鉢か炬燵、湯たんぽだった。囲炉裏はもう家になかったが、風呂の焚き口、台所の竈の前は
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